微生物病研究所からのコロナウイルス情報
2020年3月4日
新着情報
更新情報
2021.10.27 サイトリニューアルを行い「阪大微研のやわらかサイエンス 感染症と免疫のQ&A」として新たにオープンしました。
今後コンテンツを充実させていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
新サイトはこちら
https://biken.yawaraka-science.com/
- コロナウイルスとは?
ヒトに感染するコロナウイルスはこれまで6種類が知られていました。そのうち4種類は一般的な風邪の原因ウイルスとしてよく知られており、ほとんどの人が6歳までに感染を経験します。
残りの2種類はSARSコロナウイルスとMERSコロナウイルスで、他のコロナウイルスより深刻な症状をひきおこします。
今回中国で発見されたコロナウイルス「2019-nCoV」はヒトに感染するコロナウイルスとしては7つ目のウイルスとなります。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/9303-coronavirus.html
画像提供:臨床感染症研究グループ 神谷亘(現: 群馬大学医学系研究科)
- 対策法
コロナウイルスは「膜」を持つタイプのウイルスで、この膜をこわせば「消毒」できます。消毒にはアルコール消毒や石鹸による手洗いが有効です。また、マスクの着用は、せきやくしゃみによるウイルスの飛散をさまたげ、感染拡大を防ぐことができます。
コロナウイルスには、抗ウイルス薬やワクチンがまだありません(【2/26更新】ワクチンについて解説を掲載しました。詳細はこちら。)。
しかし、わたしたちにはコロナウイルスを始め、様々な病気の原因となるウイルス・細菌を撃退する「免疫系」という力が備わっています。バランスの良い食事や十分な睡眠など、生活習慣をととのえ、免疫系によるウイルス撃退能力を最大限に発揮できる状態に保っておくことが最大の予防策です。
【2/18更新】基礎疾患のある方は、ウイルスによって引き起こされる炎症がひどくなりやすく、血管から組織への水やタンパク質などの物質移動(血管透過性)が異常に亢進してしまう傾向にあります。がん組織などの血管もこの血管透過性が異常に高い状態です。この血管透過性を正常化すると、インフルエンザ脳症の脳浮腫や、デング熱の消化管出血、急性呼吸窮迫症候群を抑えられるケースがあります。今回の新型コロナウイルスによる肺炎の重症化も、炎症による血管透過性の異常亢進が関係している可能性があります。
炎症反応を制御するのは、わたしたちのからだに備わる免疫系なので、免疫系が正常に機能するよう健康状態を保つことがとても大切です。
- 検出方法
現在、コロナウイルスにはインフルエンザのように数分で検出できるようなキットはありません。
中国の研究グループが発表したコロナウイルスの遺伝子配列情報をもとに、コロナウイルスの遺伝子だけを増幅させる検出法(Polymerase Chain Reaction法: PCR法)によりウイルスを検出します。対象者のサンプルでPCR法を行い、コロナウイルスがいれば遺伝子が検出されます。
- コロナウイルスはどこからやってきた?
コロナウイルスはヒトにも動物にも感染するウイルスで、猫や豚、牛など様々な動物に感染します。今回の「c2019-nCoV」はSARSコロナウイルスと同様、コウモリがおおもとと考えられています。
コウモリから直接ヒトに感染する可能性もありますが、SARSはハクビシン、MERSはラクダなどに仲介されており、今回も仲介動物がいると予測されています。
コウモリのウイルスが、コウモリ以外の動物に感染したことで病気を引き起こす能力を新たに得たのか、もともとウイルスが持っていた遺伝子でヒトにのみ病気を引き起こすものがあったのか、病原性の由来についてはよくわかっていません。
【2/20更新】このように、ウイルスのおおもとなど遺伝子の由来を推定するためには、進化的に関連する多くの遺伝子の配列を集め、比較し、系統樹をつくります。このための計算機上の標準的な配列解析手順があります。微生物病研究所ゲノム情報解析分野では、このような解析でよく使われているMAFFTというソフトウェアを開発し、公開しています。実際、今回の新型コロナウイルスの遺伝子解析においても、中国や他の国の多くの研究者がこのMAFFTソフトウェアを利用しています。
・コロナウイルス遺伝子解析にMAFFTを用いた研究論文はこちら
https://www.thelancet.com/action/showPdf?pii=S0140-6736%2820%2930251-8
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2012-7_reference.pdf
- 感染者の状況
3/3現在で、世界で89,977人の感染者とうち死亡者3,108人が確認されています(3.4%)。
http://www.cas.go.jp/jp/influenza/novel_coronavirus.html
他のウイルス感染症例としては、インフルエンザは国内だけで年間推定1,000万人、死亡例は2000年以降では200名程度から1800名程度までばらつきがあり、平均では0.1%程度と言われています。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html
SARSは、大流行した2002年11月〜2003年8月の間に中国を中心に感染者8,096人、うち死亡者774人が確認されています(9.6%)。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/414-sars-intro.html
MERSは、2019年11月までに推定感染者数2494名、うち少なくとも858名の死亡者数と発表されています(34.4%)。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/mers.html
ただし、SARS流行は20年近くも前、MERSは流行した土地や気候条件も異なることから、数字だけでは一概に比較できません。
- 最新の研究では...
微生物病研究所の神谷亘らの研究グループ(現: 群馬大医学系研究科)では、コロナウイルスの遺伝子操作系を確立しました。この遺伝子を操作したコロナウイルスを活用し、弱毒ワクチンの開発や、病気を引き起こすメカニズムの解明にむけて研究を展開しています。
http://www.biken.osaka-u.ac.jp/laboratories/detail/20
また、SARSやMERSなどコウモリ由来のウイルスがなぜヒトに病原性を持つのか、そのメカニズムについてはまだ不明の部分が多くあります。現在、微生物病研究所ウイルス免疫分野では、コロナウイルスの仲間ではありませんが、やはりコウモリがおおもととなり、ヒトでも病気をひきおこす「ネルソンベイレオウイルス」というウイルスに着目し、その謎の解明にむけて研究を展開しています。
http://www.biken.osaka-u.ac.jp/laboratories/detail/16
- 病原体を研究するときは...
コロナウイルスを始め、ヒトに病気を起こす危険なウイルスなどの病原体は、法令で定められた特別な実験室での扱いが義務付けられています。
微生物病研究所でも様々な病原体を扱っていますが、各研究室には滅菌機器などの設備が完備されています。また、より危険な病原体を扱う場合は「感染症共同実験室」という、生物学的災害(バイオハザード)を防ぐための特殊な設備を備えた実験室で、研究を行います。
http://www.biken.osaka-u.ac.jp/laboratories/detail/37
今後も情報発信を続けます。
微生物病研究所では、今後も基礎研究所ならではの情報発信をつづけていきます。
また、このような事態に対応できるよう、感染症、免疫系など病気について科学的に正確な情報をわかりやすくまとめて掲載する「WEB虎の巻」制作プロジェクトを昨年12月にたちあげました。
制作資金はクラウドファンディングにて募っています。よろしければご協力いただければ幸いです。
詳細はこちらから。
https://readyfor.jp/projects/immunology-textbook
参考
獨協医科大学医学部作成「20分で大ざっぱに分かる新型コロナウイルス」(Youtube)
https://www.youtube.com/watch?v=Rj9oNSTC2YM
首相官邸コロナウイルス関連情報ページ
http://www.kantei.go.jp/jp/pages/corona_news.html
厚生労働省コロナウイルス関連情報ページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html
国立感染症研究所コロナウイルス関連情報ページ
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov.html
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