所長挨拶

大阪大学微生物病研究所 所長 松浦 善治

大阪大学微生物病研究所は、微生物病の学理を明らかにすることを目的に、大阪大学で最初の附置研究所として、1934年(昭和9年)に設置されました。その後、80余年にわたり、感染症学、免疫学、腫瘍学等の基礎研究の発展を牽引し、新たな病原微生物の発見とその発症機構の解明、さらに、これらの研究成果を基にしたワクチンや診断法の開発を通して、感染症の征圧に大きく貢献してきました。また、病原微生物の研究を進める中で、がん遺伝子や細胞融合現象の発見、自然免疫機構の解明など、生命科学の発展に極めて大きな足跡を残してきました 。

現在、本研究所では以下の体制で研究を進めています。基礎研究を遂行する3研究部門 (感染機構研究部門、生体防御研究部門、環境応答研究部門)、応用研究を目指した3センター (難治感染症対策研究センター、遺伝情報実験センター、感染症国際研究センター)、さらに国内で取り扱うことが難しい病原体研究を目的として、日本・タイ感染症共同研究センター(RCC-ERI)、マヒドン-大阪感染症センター(MOCID)、 及び、デングワクチン(阪大微生物病研究会)寄附研究部門をタイ王国に設置しています。また、2014年に研究シーズから開発されるワクチンの実用化を目的とする、BIKEN次世代ワクチン協働研究所が設置されました。

本研究所の最先端研究は、最新鋭の共通研究施設によって支えられています。大型で高額な共通研究機器の有効運用を担当する中央実験室、危険度の高い病原体を研究する感染症共同実験室、遺伝子改変マウスを作製する感染動物実験施設、放射性同位元素実験室、感染症の発症に関与する遺伝子を網羅的に解析する感染症DNAチップ開発センター、次世代及び次々世代DNAシーケンサーによるゲノム情報解析とバイオインフォマティクスを担当する感染症メタゲノム研究分野等の、特色のある研究施設を整備しています。また、これらの研究資源を研究者コミュニティに広く開放し、分野横断的で学際的な共同研究の遂行を心がけています。

また、本研究所は、文部科学省から共同利用・共同研究拠点として認定されており、本研究所を利用した共同研究はもとより、病原微生物資源室で保存している病原菌の国内外の研究者への分与を通して、感染症研究の進展を支援しています。加えて、本研究所の教員は医学系研究科、生命機能研究科、理学研究科、薬学研究科を兼任し、国内外から多くの大学院学生を受け入れ、時代を担う優秀な人材の育成に努めています。

さらに、本研究所の研究成果を基に、多くのワクチンを開発製造し、国内外に広く供給している一般財団法人阪大微生物病研究会(BIKEN)、及び本研究所の4名の研究者が中心となり、生体における免疫応答を時空間的に解明することを目的として設置された免疫学フロンティアセンター(IFReC)との連携を強化しながら、感染症の基礎研究から臨床応用まで、世界トップレベルの研究を展開しています。

1980年にWHOは天然痘の根絶を高らかに宣言し、20世紀中に人類は感染症を征圧できると誰もが信じていました。しかしながら、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行で事態は一変し、人々は感染症研究の重要性に気づかされました。その後も、インフルエンザ、デング熱、エボラ出血熱、多剤耐性菌等の感染症の恐怖に人々は晒され続けています。

本研究所は、これまでの輝かしい実績を継承しながら、病原微生物学、免疫学、腫瘍学、発生学、細胞生物学等の基礎研究の発展に貢献するとともに、次世代の研究領域を開拓し牽引する、高い志を持った国内外の研究者の育成に注力したいと考えています。

大阪大学微生物病研究所 所長 松浦 善治