所長挨拶

大阪大学微生物病研究所 所長 松浦 善治

大阪大学微生物病研究所は、微生物病の学理の解明を目的に、大阪大学で最初の附置研究所として、1934年(昭和9年)に設置されました。その後、感染症学、免疫学、腫瘍学等の基礎研究の発展を牽引し、新たな病原微生物の発見とその発症機構の解明、さらに、これらの研究成果を基にしたワクチンや診断法の開発を通して、感染症の征圧に大きく貢献してきました。また、病原微生物の研究を進める中で、がん遺伝子や細胞融合現象の発見、自然免疫機構の解明など、生命科学の発展に極めて大きな足跡を残してきました 。

新型コロナウイルス流行下においては、研究所一丸となりウイルスの性状と病態発症のメカニズム解明による治療法・予防法開発のための基礎研究を推進しました。現在は感染症の克服を目指すべくこの体制をさらに発展させ、免疫学フロンティアセンター(IFReC)、感染症総合教育研究拠点(CiDER)、ワクチン開発拠点先端モダリティ・DDS研究センター(CAMaD)、一般財団法人阪大微生物病研究会(BIKEN財団)をはじめとする学内外関連機関との協働による研究開発を展開しています。

本研究所の最先端研究は、最新鋭の共通研究施設によって支えられています。大型で高額な共通研究機器の有効運用を担当する中央実験室、危険度の高い病原体を扱うBSL3実験室を備えた感染症共同実験室、遺伝子改変マウスを作製する感染動物実験施設、放射性同位元素実験室、大規模ゲノム解析・オミクス解析およびバイオインフォマティクスを担当するゲノム解析室等の、特色のある研究施設を整備しています。これらの研究資源を研究者コミュニティに広く開放し、分野横断的で学際的な共同研究の遂行と当該研究分野の研究推進に尽力しています。特に、大規模ゲノム解析・オミクス解析から得られるビッグデータに基づくバイオインフォマティクス研究において、学内外教育研究ハブ拠点の形成を目指し「バイオインフォマティクス総合研究プラットフォーム」構想を実施しています。2025年のバイオインフォマティクス共同研究施設竣工にむけて、人材・組織体制の強化と整備を進めています。

さらに、本研究所に蓄積される感染症学・免疫学・腫瘍学分野における実績・知見・研究資源を集結し、国民からの期待を担う責任を果たすべく「先制医療がん老化研究拠点(Preemptive-medicine Cancer&Aging research core, PreMed(プレメド)拠点)の形成を推進しています。本研究拠点では、依然として死亡原因第1位であるがんに対し、先制医療による「がん予防医療」を確立、社会的健康寿命の延伸による「生きがいを生む社会の創造」を目指します。本事業は大阪大学「OUマスタープラン加速事業」に採択され、発がんメカニズムをがん細胞とがんを取り巻く環境からのアプローチにより世界トップレベルの研究拠点形成を実現するとともに、傑出した研究成果による社会問題の解決を通じて国民の需要に応え得る学術研究体制の確立を目指します。

また、本研究所は、文部科学省から共同利用・共同研究拠点として認定されており、本研究所を利用した共同研究はもとより、国内外研究者に対し、令和5年度より新棟運用を開始したBSL3実験室の利用開放、病原微生物資源室において収集・保存する病原菌の分与を通して、感染症研究の進展を支援しています。加えて、本研究所の教員は医学系研究科、生命機能研究科、理学研究科、薬学研究科を兼任し、国内外から多くの大学院学生を受け入れ、時代を担う優秀な人材の育成に努めています。

本研究所は、これまでの実績を継承しながら、病原微生物学、免疫学、腫瘍学、発生学、細胞生物学等の基礎研究の発展に貢献するとともに、次世代の研究領域を開拓し牽引する、高い志を持った国内外の研究者の育成に注力したいと考えています。

大阪大学微生物病研究所 所長 髙倉 伸幸