微生物病研究所からのコロナウイルス情報:ウイルス検出法

2020年2月18日

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PCR方とは: ウイルスの遺伝子を増幅して検出します
Polymerase Chain Reaction法(PCR法)という、遺伝子を増幅する方法を使い、ウイルスの遺伝子を増殖して検出しています。
ちなみにPCR法は、今や遺伝子研究になくてはならない技術で、この方法を発見したカリー・マリスは1993年にノーベル化学賞を受賞しました。

<PCR法の原理>

まず一本のDNAをもとに、DNAを複製します。さらに、複製された2本のDNAをそれぞれ複製します。これを繰り返すことで、2本が4本、4本が8本、、、と倍々にDNAが増幅されます。患者さんの検体に含まれるウイルスの遺伝子量では検出できませんが、このPCR法で増幅することにより検出できるようになります。
PCR法には、ウイルスの遺伝子配列情報をもとに人工的に合成した短いDNA断片(プライマー)が必要です。今回は中国の研究グループが発表した新型コロナウイルスの遺伝子配列をもとにこのDNA断片を合成しています。
※コロナウイルスはRNAウイルスなので、PCR法の前にRNAをDNAに変える「逆転写」という作業も追加されます。
PCR法にもうひと工夫:遺伝子増幅情報をリアルタイムにゲット
今回のウイルス検出にはただのPCR法ではなく「リアルタイムPCR法」という方法が用いられています。PCR法でウイルスの遺伝子を増やす際、DNAを増やしながら「蛍光試薬」という光る試薬を取り込ませます。遺伝子が増えれば光が強くなるので、この光の強さでウイルスの遺伝子を検出できます。ウイルスに感染していなければ、ウイルスの遺伝子も存在しないので、遺伝子は増えず光も強くなりません。
取り扱いはウイルスが拡散しないよう万全を期して:SARSの際は実験室感染も
感染した患者さんの検体には、当然感染力があります。2003年にSARSが流行した際は、患者さんの検体を防護しない状態で触れてしまったことが原因と考えられる「実験室内感染」の例が複数ありました。
患者さんの検体を扱うためには、病原体が拡散しないよう特別な実験室で慎重に行う必要があります。自動で遺伝子を抽出できる装置もありますが、サンプルが飛散し実験室内感染がおきる恐れがあります。そのため、検出作業は基本的に手作業で行われており、一日に処理できる検体数が限られているのです。
ウイルス簡易検出法
PCR法により遺伝子を検出するには、遺伝子抽出など複数のステップが必要で、また、検出するまでに数時間もかかります。
一方、一般の病院で行われるインフルエンザ検査などにはPCR方法は用いられていません。「イムノクロマトグラフィー」という、遺伝子抽出などの処理の必要のない診断キットを用いて検出しています。
この診断法は、検出したいウイルス「だけ」に結合する「抗体」というタンパク質を利用しています。写真は微生物病研究所で開発中のデングウイルスの検出キットです。デングウイルスは蚊によって運ばれるウイルスで、デング熱という病気の原因となるウイルスです。写真の検出キットには、デングウイルスだけに結合する「抗体」が仕込まれていて、デングウイルスと「抗体」が結合すると色がついてラインがでます。患者さんの検体にウイルスが含まれていれば、ラインが出るので、目視によってウイルスがいるかいないかを判断できます。インフルエンザウイルスの検出もこの方法が用いられています。
画像提供:ウイルス感染制御分野 塩田 達雄 教授
ウイルス簡易検出法の開発には?
ポイントとなるのは、検出したいウイルス「だけ」に結合する「抗体」をみつけることです。うっかり他のウイルスにも結合してしまっては、意味がありません。目的のウイルス「だけ」に結合するよい「抗体」をみつけることができるかが検出法開発の鍵になります。よい抗体はあっさり見つかることもあれば、なかなか見つからないこともあり、一概に「〇〇ヶ月でできる」と明言することは難しいのが現実です。

<簡便検出法のメリットとデメリット>

「イムノクロマトクラフィー」を用いた検出法は、ステップが少ないので実験室感染などの危険性が低くなることが最大のメリットです。ただし、遺伝子を増幅して検出するPCR法ほど感度はよくありません。例えばインフルエンザウイルスの検査は発熱後12時間以上たってからでないと検出できないのは、感染してすぐではウイルスが十分に増えていないので、目視できるほど色がでてこないためです。
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