微生物病研究所からのコロナウイルス情報:ワクチン開発

2020年2月26日

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2021.10.27 サイトリニューアルを行い「阪大微研のやわらかサイエンス 感染症と免疫のQ&A」として新たにオープンしました。

今後コンテンツを充実させていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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https://biken.yawaraka-science.com/

そもそもワクチンとは?
病原体を覚えさせる:次にあったときは容赦なし!
わたしたちは、侵入してきた病原体を排除し体を守ることのできる「免疫系」を持っています。この免疫系には、一度侵入してきた病原体を記憶し、再び入ってきた時に速やかに撃退できるシステムが備わっています。このシステムを利用したのがワクチンです。
つまり、弱らせた病原体や病原体の一部を接種することで、感染にしたときにおきる免疫反応を人工的にひきおこしてわたしたちのからだに記憶させるのです。
このワクチンによってひきおこされる免疫反応の強さは、「きちんと記憶される程度」の強さが必要です。しかし、うっかり「病気にならない程度」の強さでないといけません。このちょうどよい「あんばい」の免疫反応をひきおこすワクチンをつくるのが非常に難しいのです。
リンパ球(矢印)
リンパ球にはT細胞とB細胞の二種類があります。病原体を認識した時活性化して、病原体を排除するはたらきをします。一部の細胞は「メモリー細胞」となって、次の感染に備えます。ワクチンはこのリンパ球による反応をよいあんばいで引き起こし、からだに病原体を覚えさせます。
ワクチンによって感染しなくなるわけではない
ワクチンは、病原体が侵入してきても排除できる抵抗力をつけるためのものであって、病原体が感染しなくなるわけではありません。ワクチンを接種していても、体調が悪いなど何らかの理由で免疫系が発動しにくい状態であれば、十分な抵抗力を発揮できず、病気の症状がでてしまうこともあります。また、体質やワクチンの種類よっては「きちんと記憶される程度」の免疫反応を誘導しきれず、十分な抵抗力をつけることができない場合もあります。
「きちんと記憶される程度」の免疫反応には、弱毒化した生ワクチンがよい?

弱毒生ワクチンとは...

ウイルスなどの病原体を、病気を起こさないほどに弱めてつくられたワクチンです。病原体は弱められていますが、生きていて体内で増殖することができます。
「きちんと記憶される程度」ですが弱毒化しているので「病気にならない程度」の免疫反応をひきおこします。
例)みずぼうそうワクチン、麻しん(はしか)ワクチン、風しんワクチンなど

不活性化ワクチンとは...

一方、病原体をバラバラにするなど感染する能力を失わせたものをもとにつくるのが不活化ワクチンです。病原体は死んでいるので体内で増殖することはありませんが、自然に感染したときや生ワクチンに比べて「きちんと記憶される程度」の免疫反応を引き起こすことができない場合があります。

例)インフルエンザワクチン、日本脳炎ワクチンなど
 
生ワクチンは「よいあんばい」の免疫反応をひきおこしますが、弱毒化しているとはいえ生きている病原体なので、安全性に不安があるのは事実です。みずぼうそうや、はしか、おたふく風邪のワクチンは生ワクチンですが、これらのワクチンは歴史的に長く用いられており、この歴史が安全性の担保となっています。
しかし、新規ワクチンはこのような安全性の担保がありません。2012年から不活化ワクチンが定期接種として導入されたポリオワクチンの例をはじめ、最近は生ワクチンから不活化ワクチンの使用に移行する傾向にあります。
ワクチン開発にかかる期間は?
ワクチン開発には、「よいあんばい」の免疫反応をひきおこせる弱毒病原体か、病原体の一部が必要です。これをみつけるのが非常にむずかしく、半年や1年という単位ではなし得ないのが現状です。また、見つけられたとしても臨床試験や、認可をうけるまで年月が必要です。
現在では、生物学(bio)と情報学(infomatics)をあわせた「バイオインフォマティクス」により、膨大な情報を扱う分野が切り開かれています。このような新規分野からの知見により加速される可能性もありますが、現状ではワクチン開発には10年程度の年月が必要とされています。

微生物病研究所におけるワクチン開発最前線

生ワクチンは、「きちんと記憶される程度」の免疫反応をひきおこしますが、病原体は生きたままなので、安全面に不安があります。
一方、不活化ワクチンは、病原体は死んだ状態ですが、「きちんと記憶される程度」の免疫反応を引き起こせないことがあります。
微生物病研究所ウイルス免疫分野では、この問題を解決するために、「リバースジェネティクス系」を用いた新規ワクチンの研究開発を展開しています。
http://www.biken.osaka-u.ac.jp/laboratories/detail/16
リバースジェネティクス系とは、ウイルスの全遺伝子の情報をもとに、ウイルスを人工合成する実験系です。合成する際、遺伝子組換え技術を駆使し、人工的に遺伝子操作したウイルスをつくることもできます。つまり、「きちんと記憶される程度」の免疫反応をひきおこしつつ、安全性の高いウイルスを合成できる可能性を有しています。この技術をもちいて「カスタムメイド」なワクチンの開発にむけて研究を展開しています。
ロタウイルスの人工合成:全ロタウイルスゲノムと、合成の補助となる遺伝子を細胞内に遺伝子導入し、人工的に遺伝子組換えウイルスをつくる。
(画像提供:ウイルス免疫分野)

 

※ワクチン製造の生産事情

ワクチンをつくるには、もととなる病原体を増やす必要があります。例えば、インフルエンザは鶏の卵で増やすので、鶏卵が大量に必要です。卵や培養液など増やすための素材が大量に必要な場合、それに応じた設備や施設も必要となり、ウイルスの増えやすさは生産効率に非常に重要です。

「きちんと記憶される程度」の免疫反応をひきおこす「ワクチンとして良いウイルス」であっても、増えが悪いと増やすための材料や設備が膨大量必要になり、生産効率が悪く採算がとれない場合もあるのです...

 

 

 
 

 

 

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