研究内容

私たちの身体を構成する細胞は、異常を感知すると増殖を停止する安全装置を備えている。細胞老化はこの安全装置の一つであり、細胞の異常増殖を抑える癌抑制機構として生体の恒常性維持に寄与している。しかしその一方で、細胞老化を起こした細胞(老化細胞)は炎症性サイトカイン、ケモカイン、増殖因子や細胞外マトリックス分解酵素など、様々な分泌因子を高発現するSASPと呼ばれる現象を起こすことで炎症を惹起し、発癌を促進する副作用があることも明らかになりつつある。 我々は細胞老化にはSASPに限らず様々な発癌促進作用があり、老化細胞が加齢や肥満に伴い体内に蓄積することが癌を含めた様々な炎症性疾患の発症原因の一つになっていると考えている。そこで当研究室では主に以下の4つ研究を通して加齢や肥満に伴う発癌メカニズムの解明とその制御を目指している。(細胞老化研究の背景と最新の動向についてはこちらをご参照ください。)

1. 細胞老化による発癌抑制とその破綻のメカニズム

我々は世界に先駆けて細胞老化の誘導にサイクリン依存性キナーゼ阻害因子であるp16INK4aの発現が重要な役割を果たしており、癌抑制遺伝子産物であるpRBを活性化することで細胞増殖を停止させると同時に、活性酸素種 (ROS)の産生を介して細胞老化の不可逆性を規定していることを見出してきた (Hara et al., Mol. Cell. Biol., 1996; Ohtani et al., Nature 2001; Takahashi et al., Nat. Cell Biol. 2006; Imai et al., Cell Rep. 2014) 。しかし、過度なROSの産生はDNA異常を引き起こし、細胞の癌化を促進してしまう危険性があるとことが知られている。このため、我々は細胞老化に伴うROSレベルの上昇と発癌との関係に着目して細胞老化が有する発癌促進作用の実態解明を目指した研究を行っている。

2. 細胞老化関連分泌現象 (SASP) の分子メカニズムの解明とその調節方法の探索

細胞老化は様々な分泌因子を高発現するSASPと呼ばれる現象を伴う。SASPは本来、老化細胞の周囲の細胞を活性化して傷ついた組織の修復を促進する目的で起こると考えられるが (Demaria et al., Dev. Cell 2014)、過度に働くと炎症や発癌を引き起こすと考えられる。では、そもそもSASPはなぜ起こるのだろうか?我々はSASPの誘導にヒストンメチル化酵素であるG9aおよびGLP の分解が関与していることを見出しており (Takahashi et al., Mol. Cell 2012)、現在、更にその詳細なメカニズムの解明を試みている。これらの研究を通してSASPの調節方法を見出し、癌を含めた炎症性疾患の予防法開発につなげることを目指している。

3. 細胞老化の生体内での役割の解明

我々は生体内で起こる細胞老化反応をリアルタイムに可視化出来るマウス(細胞老化反応イメージングマウス)の開発に成功している(Ohtani et al., PNAS 2007; Yamakoshi et al., J. Cell Biol. 2009)。現在、これらのマウスを用いることで細胞老化が生体内のどこで、いつ、どの程度起こるのかを明らかにし、更に様々な遺伝子改変マウスと組み合わせた実験を行うことで細胞老化の生体内での役割の解明を目指している。

4. 肥満に伴い細胞老化を誘導する腸内細菌の探索とその制御

我々は最近、細胞老化反応イメージングマウスを用いることで、肥満に伴い増加した腸内細菌の代謝産物が肝星細胞にSASPを起こすことで肝癌の発症を促進することを明らかにした (Yoshimoto et al., Nature 2013)。現在、同様のメカニズムがヒトの肥満に伴う肝癌の発症にも関わっているかどうかをヒトの臨床サンプルを用いて解析中である。もし、ヒトでも同様の現象が確認された場合には腸内細菌を標的とした発癌リスク評価方法の開発や癌の予防法の開発を目指す。

細胞老化と発癌との関係

最近の代表的な論文(*Corresponding author)

  1. Sato S, Kawamata Y, Takahashi A, Imai Y, Hanyu A, Okuma A, Takasugi M, Yamakoshi K, Sorimachi H, Kanda H, Ishikawa Y, Sone S, Nishioka Y,*Ohtani N, & *Hara E.
    Ablation of the p16INK4a tumour suppressor reverses ageing phenotypes of klotho mice.
    Nature Communications 2015 Apr 29;6:7035.
  2. Imai Y, Takahashi A, Hanyu A, Hori S, Sato S, Naka K, Hirao A, Ohtani N, &*Hara E.
    Crosstalk between the Rb pathway and AKT signaling forms a quiescence-senescence switch.
    Cell Reports 2014 Apr 10;7(1):194-207.
  3. Yoshimoto S, Loo TM, Atarashi K, Kanda H, Sato S, Oyadomari S, Iwakura Y, Oshima K, Morita H, Hattori M, Honda K, Ishikawa Y, *Hara E, & Ohtani N.
    Obesity-induced gut microbial metabolite promotes liver cancer through senescence secretome.
    Nature. 2013 Jul 4;499(7456):97-101.
  4. Takahashi A, Imai Y, Yamakoshi K, Kuninaka S, Ohtani N, Yoshimoto S, Hori S, Tachibana M, Anderton E, Takeuchi T, Shinkai Y, Peters G, Saya H, &*Hara E.
    DNA damage signaling triggers degradation of histone methyltransferases through APC/CCdh1 in senescent cells.
    Molecular Cell 2012 Jan 13;45(1):123-31.
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