老化細胞では細胞質にDNA集積しSASPに関与することを明らかに(原研がNat Commun誌に発表)

長い間、細胞老化の主な役割は発がんストレスに応答して細胞周期を不可逆的に停止することで発がんを防ぐがん抑制機構であると考えられてきた。しかし、近年、それに加え、細胞老化を起こした細胞(以下、「老化細胞」と呼ぶ)は炎症性サイトカイン、ケモカイン、増殖因子や細胞外マトリックス分解酵素などの様々な分泌因子を高発現するsenescence-associated secretory phenotype (SASP)と呼ばれる現象を引き起こしていることが明らかになってきた。SASPは生体内において、がん抑制、損傷治癒の促進など、生体にとって有益な作用が確認されている一方で、状況によっては慢性炎症を惹起し、がん等、様々な加齢性疾患の発症を促進する負の作用があることも報告されている (Yoshimoto et al., Nature 2013)。このため、SASPの調節は恒常性の維持、即ち疾患の予防に重要であると考えられる。これまで我々及び他のグループはSASPの誘導にはDNAダメージ応答が重要な役割を果たしていることを報告してきたが、その詳細については不明な点が多く残されていた(Rodier et al., Nat. Cell Biol., 2009; Takahashi et al., Mol. Cell, 2012)。

 

真核生物のDNAは核とミトコンドリアに格納されることで、ウイルスや細菌の感染防御のために備わった細胞質DNAセンシング機構の活性化及びそれに伴う自然免疫応答が起こることが防がれている。しかし、最近、我々は老化細胞では細胞質に自身のゲノムDNA断片が蓄積していることを見出した(Takahashi et al., Nat. Commun. 2017 ※1)。また、以前から自然免疫応答の一つであるinterferon (IFN)-bの発現誘導も老化細胞において確認しており(Tahara et al., Oncogene 1995)、SASPが起こる重要なメカニズムとして細胞質DNAセンシング機構の活性化によって引き起こされる自然免疫応答が関与しているのではないかと考えて、今回、その仮説の証明を試みた。

 

その結果、興味深いことに、異なる種類の正常な培養細胞において、様々なストレスによって細胞老化を誘導すると、通常は細胞質に存在するDNAを除去する酵素(DNase2とDNase3 (TREX1))の発現レベルが著しく低下し、そのために細胞質にゲノムDNA断片の一部が蓄積しやすくなることを見出した。更に蓄積したゲノムDNA断片はcGAS-STING細胞質DNAセンシング機構を活性化することでIFN-bの活性化とそれに伴う転写因子NFkBの活性化を引き起こし、ウイルスや細菌の感染がなくても自然免疫応答を引き起こすことでSASPが誘導されることを見出した(図―1参照)。また、生体内においても、少なくとも肥満に伴い肝星細胞が引き起こすSASPとそれに伴う肝がんの発症にcGAS-STING経路が重要な役割をしていることを明らかにした。今回の発見は、今後SASPの制御を可能にする方法やSASPの予防法開発につながることが予想され健康寿命の延伸に貢献できる可能性が期待される。

 

本研究成果はNature Commuicationsに2018.3.28にオンライン掲載されました。

Downregulation of cytoplasmic DNases is implicated in cytoplasmic DNA accumulation and SASP in senescent cells

Akiko Takahashi, Tze Mun Loo, Ryo Okada, Fumitaka Kamachi, Yoshihiro Watanabe, Masahiro Wakita, Sugiko Watanabe, Shimpei Kawamoto, Kenichi Miyata, Glen N. Barber, Naoko Ohtani & Eiji Hara

  • 図1