エクソソームと細胞老化の関係を解明(原研の研究成果がNat Commun誌に掲載)

近年、分泌膜小胞としてしられるエクソソーム(※1)は細胞内の蛋白質、脂質及び核酸など様々な細胞内構成因子を含んだ形で分泌され、それらを他の細胞に受け渡す細胞間コミュニケーションツールとして重要な役割を果たしていることが明らかになってきている。しかし、エクソソームを分泌する細胞にとって、エクソソームを分泌することにどのようなメリットがあるかについては殆ど明らかにされていない。

我々は正常なヒトの細胞において複数の異なる方法でエクソソームの生合成または分泌を阻害すると、細胞老化様の増殖停止またはアポトーシスを起こすことを見出した。これは活性酸素種(ROS)に依存的なDNA損傷応答によるもので、通常エクソソームは細胞質に存在する不要なゲノムDNA断片を細胞外に排出することでDNA損傷応答が起こらないようにしていることを明らかにした(下図:DNA断片(矢印)を含むエクソソーム)。エクソソームの分泌量が低下すると、細胞質に不要なゲノムDNA断片が蓄積し、それらがSTINGなどの細胞質DNAセンサーを過度に活性化することでインターフェロン経路に代表される自然免疫応答が活性化されることでROSが増加し、結果的にDNA損傷応答が亢進する可能性があることを見出した。また、細胞老化を起こした細胞(老化細胞)は細胞質にゲノムDNA断片が増加するため、より多くのエクソソームを分泌することでROS依存的なDNA損傷応答が亢進し、アポトーシスが起こることを防いでいる可能性があることが示唆された。即ち、正常細胞ではエクソソームを分泌することで過度な自然免疫応答が起こることを防いでおり、細胞の恒常性維持機構を担っている可能性が高い。

興味深いことに、今回我々が見出した、エクソソームによる細胞質DNAの排出機構はウイルスDNAのような外来DNAの細胞外への排出にも寄与しており、生体防御機構の一つとして機能している可能性があることも明らかになった。これらの研究結果は、エクソソームの新たな機能を明らかにすると同時に、細胞の恒常性を維持する上で新たな方法の開発につながる可能性を示唆している。

 

(※1)※1エクソソーム

細胞から放出される脂質二重膜に囲まれた40~150nmの小胞。エンドソーム由来の小胞を複数含む(Multi-Vesicular endosomes)。様々な細胞から分泌されることが明らかになっており、内部には分泌元となった細胞のタンパク質や核酸が含まれる。細胞間のコミュニケーションを始め、今回の論文のような細胞老化との密接な関係など、様々な生理機能との関連が報告されており、近年注目が集まっている。

 

この研究成果はNature Communications誌に掲載されました。

Exosomes maintain cellular homeostasis by excreting harmful DNA from cells.

 2017 May 16;8:15287. doi: 10.1038/ncomms15287.