超短命魚をモデルに、生殖細胞が寿命の性差を生み出すメカニズムの解明と抗老化ホルモンの発見に成功(石谷研がScience Advances誌に発表)

大阪大学微生物病研究所の石谷太教授、阿部 耕太助教らの研究チームは、大阪大学大学院医学系研究科や九州大学生体防御医学研究所、群馬大学生体調節研究所との共同研究により、脊椎動物の生殖細胞がメスとオスで異なる機構により老化と寿命を制御することを明らかにしました。

 

【研究成果のポイント】

  • 次世代を作る細胞である生殖細胞が脊椎動物の寿命の性差を生み出しており、メスの生殖細胞は寿命を伸ばし、オスの生殖細胞は寿命を縮めることを明らかにした。
  • 生殖細胞は、メスではエストロゲンシグナル(※1)およびインスリン/IGFシグナル(※2)の抑制、オスではビタミンDシグナル(※3)の抑制により寿命・老化を制御することがわかった。
  • ビタミンDを抗老化ホルモンとして同定、その投与により脊椎動物の寿命を延伸可能であることを示した。

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本研究成果は、米国科学誌「Science Advances」に、2024 年 6月13日に公開されました。

タイトル:Sex-dependent regulation of vertebrate somatic growth and aging by germ cells

著者名:Kota Abe, Hikaru Ino, Tomomi Niwa, Daniel Semmy, Ayami Takaochi, Takashi Nishimura, Chihiro Mogi, Maki Uenaka, Masaru Ishii, Kaori Tanaka, Yasuyuki Ohkawa, Tohru Ishitani

DOI: https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adi1621

 

用語説明

※1 エストロゲンシグナル
主に卵巣で作られる女性ホルモンであるエストロゲンが、体の様々な部位で受け取られて、女性の生殖機能や健康維持に重要な作用をもたらすというシグナル経路である。ヒト女性では、閉経後にエストロゲン量が劇的に低下し、それが心血管疾患等の健康リスクを高めることが知られている。

 

※2 インスリン/IGFシグナル
体の成長をコントロールするシグナル経路である。脊椎動物では、脳で分泌された成長ホルモンが主に肝臓に作用し、そこで作られたインスリン様成長因子(IGF)がさらに全身に作用することで成長が促進する。インスリン/IGFシグナルは成長を促進すると同時に、ストレス応答やオートファジーといった健康維持に重要な機構を抑制することも知られており、インスリン/IGFシグナルの抑制によって寿命が伸びることが線虫やマウスといったモデル動物で示されている。

 

※3ビタミンDシグナル
脂溶性ビタミンの一つであるビタミンDが細胞に受容され、様々な遺伝子の発現を制御するシグナル経路。特に、腸の細胞でビタミンDシグナルが活性化することでカルシウムの吸収が促進され、これが骨の健康を維持するという機能が有名である。しかしさらに近年、ビタミンDは筋肉や皮膚、免疫細胞など様々な細胞に作用し、それらの健康状態の維持、改善に重要な役割を果たすことが明らかとなりつつある。しかし、個体老化とビタミンDの関係はほとんどわかっていない。またなお、ビタミンDは食物から取り込まれるだけでなく、体内で合成、活性化が行われる内分泌ホルモンの一つでもある。ヒトでは、皮膚でビタミンDの前駆体が合成され、それが肝臓や腎臓で活性型に変換される。

 

  • 図1)生殖細胞による性依存的な個体老化制御のモデル

  • 超短命魚をモデルに、生殖細胞が寿命の性差を生み出すメカニズムの解明と抗老化ホルモンの発見に成功(石谷研がScience Advances誌に発表)