環境応答研究部門  生体統御分野/石谷研究室

私たちのからだは無数の細胞から構成されていますが、これらの細胞はレゴブロックのような“ただの一部品”ではありません。細胞は、隣接細胞あるいは遠隔地の細胞と情報交換を行い、種々の情報を統合処理することで各自に組織内における位置や役割を認識し、これにより適切な機能を発揮します。本分野では、このような生体を統御し、組織恒常性を支える細胞間コミュニケーションに注目し、個体の発生や再生、老化、および変性疾患の未知のメカニズム解明と、それらを基盤とした新規治療技術の開発も目指しています。

組織恒常性維持の新概念 “モルフォスタシス”

動物組織は、発生段階において多様な撹乱に晒されても、それらを乗り越えて再現よく同じ形を作り上げる能力、“発生ロバストネス”を備えています。また、成体組織も、組織恒常性を維持すべく、古くなった細胞や傷ついた細胞を新たな細胞に入れ替えつつほぼ同じ形を保ち続けますが、一方でその破綻は様々な疾患の発症に関与します。私たちの研究室では、発生ロバストネスと組織恒常性維持機構をまとめて「モルフォスタシス」として捉え、その共通性に注目して研究を行っています。具体的には、細胞イメージングと遺伝子機能解析の双方に適したモデル動物ゼブラフィッシュをモデルに、発生ロバストネスを支える未知の分子システムを見つけ出し、さらにそのシステムの組織恒常性維持における役割、および疾患におけるその破綻を解析しています。このような研究により、発生生物学と疾患研究を融合させた組織恒常性維持の新概念の探索・確立を目指しています。

個体老化プログラムとその制御

「老化」とは加齢に伴って生理機能が低下する現象ですが、残念ながら、私たち人間を含むほとんど全ての動物はこの現象から逃れることはできず、プログラムされていたかのごとく徐々に老化し、最終的に死に至ります。では、老化はどのようなメカニズムで起こるのでしょうか?これまで線虫などの寿命が短い無脊椎動物モデルを使った研究により、老化プログラムの一端が明らかにされました。しかし、無脊椎動物は体の構造がヒトとは大きく異なり、ヒト老化機構のモデルとしては不十分でした。一方、一般的なモデル動物であるマウスは、寿命が長く(3〜4年)、その老化機構を研究するのは困難でした。そこで、私たちの研究室は、ターコイズキリフィッシュという魚に注目しています。この魚は、飼育可能な脊椎動物の中で最も寿命が短く(寿命3〜6ヶ月程度)、また、ヒトと類似した老化の表現型(運動能力や繁殖力、認知機能の低下、臓器の萎縮や変性など)を示します。私たちは、この魚をモデルにヒトの個体老化プログラムの解明と、それを基盤とした健康寿命延伸技術の開発を目指しています。

メンバー

  • 教授: 石谷 太
  • 助教: 龝枝 佑紀
  • 助教: 荻沼 政之
  • 特任助教: 石谷 閑
  • 特任助教: 阿部 耕太
  • 特任助教: 青木 佳南

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最近の代表的な論文

  • (1) Determining zebrafish dorsal organizer size by a negative feedback loop between canonical/non-canonical Wnts and Tlr4/NFκB. Zou J, et al., Nature Commun. (2023) 14(1):7194.
    (2) De novo non-synonymous CTR9 variants are associated with motor delay and macrocephaly: human genetic and zebrafish experimental evidence. Suzuki et al., Hum Mol Genet. (2022) 31(22):3846-3854.
    (3) Rapid reverse genetics systems for N. furzeri, a suitable model organism to study vertebrate aging. Oginuma M., et al., Scientific Reports (2022) 12: 11628
    (4) Zebrafish imaging reveals additional TP53 mutation switching oncogene-induced senescence from suppressor to driver in primary tumorigenesis. Haraoka Y., et al., Nature Commun. (2022) 13:1417
    (5) Intracellular pH controls WNT downstream of glycolysis in amniote embryos. Oginuma M., et al., Nature (2020) 584(7819):98-101.
    (6) Cell competition corrects noisy Wnt/β-catenin morphogen gradients to achieve robust patterning in the zebrafish embryo. Akieda Y., et al., Nature Commun. (2019)10: 4710
    (7) Horizontal Boundary Cells, a Special Group of Somitic Cells, Play Crucial Roles in the Formation of Dorsoventral Compartments in Teleost Somite. Abe K., et al., Cell Rep. (2019) 27:928-939
    (8) Hipk2 and PP1c cooperate to maintain Dvl protein levels required for Wnt signal transduction. Shimizu N., et al., Cell Reports (2014) 8(5) 1391-1404
    (9) Visualization and exploration of Tcf/Lef function using a highly responsive Wnt/β-catenin signaling-reporter transgenic zebrafish. Shimizu N., et al., Developmental biology (2012) 370(1) 71-85
    (10) Nemo-like kinase suppresses Notch signalling by interfering with formation of the Notch active transcriptional complex. Ishitani T., et al., Nature Cell Biol. (2010) 12:278-85