日本の超強毒型トキソプラズマは中南米産と同じルーツであることを明らかに(山本研がNat. Commun.誌に発表)

世界人口の約30%が感染しているといわれているトキソプラズマは、症状の強さなどその病原性が地域によって大きく異なり、一部では1000倍以上の差があります。これまで日本のトキソプラズマに関する詳細なゲノム研究は行われておらず、日本にいるトキソプラズマの危険性やどこが由来なのか(つまり、起源)についてはよく分かっていませんでした。

本研究所感染病態分野の猪原史成招聘研究員(研究当時 助教)と山本雅裕教授(免疫学フロンティア研究センター、感染症総合教育研究拠点兼任)を中心とする研究チームは、革新的な解析ツール「POPSICLE」を駆使し、日本および中国由来の合計17株のトキソプラズマの全ゲノム構造を高精細に解析することに成功しました。その結果、日本のトキソプラズマ集団は、ユーラシア大陸および南北アメリカ大陸の系統との間で独自の遺伝的混血が進んでいることが判明しました。特に注目すべきは、沖縄で確認された新型超強毒株が、中南米系統と同じルーツを持つ弱毒型株と、本土由来とみられる弱毒型株との交雑によって生じ、その病原性が著しく強くなっていることが示唆される点です。この発見は、トキソプラズマが日本国内で静かにそのリスクを拡大していることを示しており、我が国における迅速な公衆衛生医学的対策の必要性を明確にしています。

 

【研究成果のポイント】

  • 新型ゲノム解析ツール「POPSICLE※1」を共同開発:病原体のゲノム構造を直感的に視覚化。
  • 日本のトキソプラズマが示す遺伝的リンク:北米・中南米の系統と遺伝的繋がりを発見。
  • 沖縄における新型超強毒株の産出機構:日本の公衆衛生に対する脅威、迅速な対策が急務。

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本研究成果は、2024年5月22日(水)18時(日本時間)に英国科学誌「Nature Communications」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Far-East Asian Toxoplasma isolates share ancestry with North and South/Central American recombinant lineages.”

著者名:Fumiaki Ihara, Hisako Kyan, Yasuhiro Takashima, Fumiko Ono, Kei Hayashi, Tomohide Matsuo, Makoto Igarashi, Yoshifumi Nishikawa, Kenji Hikosaka, Hirokazu Sakamoto, Shota Nakamura, Daisuke Motooka, Kiyoshi Yamauchi, Madoka Ichikawa-Seki, Shinya Fukumoto, Motoki Sasaki, Hiromi Ikadai, Kodai Kusakisako, Yuma Ohari, Ayako Yoshida, Miwa Sasai, Michael E. Grigg, and Masahiro Yamamoto

DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-024-47625-6

用語説明

※1) POPSICLE

POPSICLE(英語で元々、カラフルな「ペロペロキャンディー」の意味)は各株のゲノムを10,000塩基ずつのブロックに分割し、1ブロックごとに遺伝子配列の傾向を解析することで、そのブロックがどの祖先系統に分類するかに応じて色を割り当てます。全ゲノムの祖先系統を解決することで、特定の株の遺伝的な構成を可視化することができます。POPSICLEのプロットは要素の異なる3つのパーツによって構成されます。上部は、10,000塩基ごとに割り当てられた祖先系統の色を順番に並べることで具体的なゲノムの混血構造を示しています。中央部は、系統ごとに集計された割合を示しています。下は各株の主要な祖先系統に対して1色を割り当てます。このようにPOPSICLEによって、無機的な文字列でしかない全ゲノム構造をあたかも「ペロペロキャンディー」のようにカラフルに示すことで、直感的にとらえることが可能になります。