自然免疫のように働くT細胞「MAIT細胞」の自己抗原を発見(山﨑研がScience Immunologyに発表)

分子免疫制御分野 伊東瑛美さん(医学系研究科博士課程)、山﨑晶教授(免疫学フロンティア研究センター、感染症総合教育研究拠点、ワクチン開発拠点先端モダリティ・DDS 研究センター兼任)らの研究グループは、免疫細胞が自己由来の胆汁酸化合物を認識することを明らかにしました。

【研究成果のポイント】

  • 自然免疫型T細胞※1の一つであるMAIT※2細胞が認識する内因性の自己成分(自己抗原※3)を初めて発見した。
  • MAIT細胞が認識する自己抗原は、これまで胆汁酸を体外に排泄するための誘導体と考えられていた硫酸化胆汁酸(Cholic acid 7-sulfate, CA7S)であった。
  • CA7S及びそのアナログを利用してMAIT細胞の機能を制御することで、免疫系の過剰な活性化に伴う自己免疫疾患の治療への応用が期待される。

 

MAIT細胞は、ヒトにおいて最も多いT細胞サブセットであり、様々な疾患への関与が報告されています。MAIT細胞はタンパク質を認識する「通常」T細胞とは異なり、細菌由来のビタミン代謝物を抗原として認識し活性化します。一般にT細胞は、細菌など非自己由来の構成成分に強く反応する一方で、自己の構成成分(自己抗原)を「弱く」認識することで外敵を見分けることが可能になると考えられていますが、MAIT細胞の自己抗原は不明でした。

今回、研究グループは、胆汁酸化合物である硫酸化胆汁酸Cholic acid 7-sulfate (CA7S)をMAIT細胞の初めての自己抗原として同定しました(左図)。CA7Sは免疫系を強く活性化するのではなく、むしろ分化や維持、組織修復に働くことが明らかとなりました。CA7Sを利用してMAIT細胞の機能を制御できれば、免疫疾患の治療薬としての可能性が期待されます。

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本研究成果は米国科学誌「Science Immunology」に1月26日(金)に公開されました。

タイトル:“Sulfated bile acid is a host-derived ligand for MAIT cells”

著者名:Emi Ito, Shinsuke Inuki, Yoshihiro Izumi, Masatomo Takahashi, Yuki Dambayashi, Lisa Ciacchi, Wael Awad, Ami Takeyama, Kensuke Shibata, Shotaro Mori, Jeffrey Y. W. Mak, David P. Fairlie, Takeshi Bamba, Eri Ishikawa, Masamichi Nagae, Jamie Rossjohn and Sho Yamasaki*(*責任著者)

 

用語説明

※1自然免疫型T細胞

免疫系は好中球やマクロファージなどの貪食細胞が中心となる自然免疫と、リンパ球が中心となる獲得免疫にわかれるが、自然免疫型T細胞は、この中間的な役割を担う。これまでにnatural killer T (NKT)細胞やγδT細胞、mucosal-associated invariant T(MAIT)細胞などが知られている。生体防御における働きや、がんなどの様々な疾患への関与が報告されているが、その分化や活性化機構については不明な点が多い。

 

※2MAIT細胞

自然免疫型T細胞の一種。ヒトでは最も豊富な抗原特異的T細胞であり、肝臓に多く存在する。

 

※3自己抗原

リンパ球が免疫受容体を介して認識する自分自身の成分。

 

  • 図) 既知抗原と本研究で発見した新規抗原の構造と機能の差異