生体防御研究部門  分子免疫制御分野/山﨑研究室

分子免疫制御分野では、免疫受容体がどのようにして生体の異変を感知し、恒常性を維持する応答を誘導しているのか、また、その機構の破綻がどのような疾患を引き起こすリスクがあるのかを研究しています。また、それらの知見を、新たな免疫賦活や免疫疾患の治療に繋げることを目指しています。

1)C型レクチン受容体

C型レクチン受容体は、自然免疫受容体ファミリーの1つです。近年の我々の研究により、病原体や自己由来の糖脂質・脂質など様々な分子を認識することが分かってきました。これらの多様な認識によってもたらされる有益な応答と、過剰な応答が引き起こす疾患の発症機序を明らかにすることを目的としています(図1)。

<最近の主な成果>

・内因性糖脂質グルコシルセラミドの過剰認識がゴーシェ病の神経症状を引き起こす分子機序の解明(Shimizu, Immunity 2023)

・同一の活性化サブユニットから異なる細胞応答が誘導される仕組みの解明(Watanabe, Sci. Signal. 2023)

・C型レクチン受容体を介する自己認識が恒常性応答を誘導する機構の解明(Haji, eLife 2022)

・病原体が宿主の脂質を変換して胃炎を誘導することを発見(Nagata, J. Exp. Med. 2021)

・C型レクチンに関する概説(Ishikawa, et al. Trends Immunol. 2017)

・C型レクチン受容体が内因性糖脂質を認識することを発見(Nagata, PNAS 2017)

・結核菌糖脂質を認識するC型レクチン受容体を発見(Toyonaga, Immunity 2016)

2)自然免疫型T細胞受容体

unconventional T細胞とも呼ばれ、通常のT細胞のようなペプチド抗原とは異なり、様々な脂質や代謝産物を認識します。ところが、その全貌はまだまだ不明な点が多くあります。我々は、未知の受容体・抗原の同定や、その機能を解明すべく、生化学的解析と最新のシングルセル解析、ゲノミクス、メタボロミクスを融合させたアプローチを推進しています。

<最近の主な成果>

・自己免疫疾患を惹起する新たなT細胞サブセットを同定(Shibata, Nat. Commun. 2022)

3)SARS-CoV-2に対するT細胞応答

中和抗体と共に、SARS-CoV-2に対する防御応答に重要なT細胞応答の研究を行っています。特に、解像度の高いクローンレベルでの解析と、それが認識するエピトープを明らかにする研究を推進しています。また、現行ワクチンの評価、将来の感染症に備える次世代ワクチン開発基盤技術の研究も進めています。

 

<最近の主な成果>

・重症化を免れた患者が共通して持っていたT細胞を同定(Lu, J. Exp. Med. 2021)

4)生体防御における自己認識の意義の解明

上述のように、免疫センサーはほぼ例外なく、異物だけでなく、自己を監視していることがわかってきました(図2)。今年度から発足した学術変革領域研究(A)を基盤に、免疫センサーによる自己認識がもたらす「功」と「罪」を明らかにしていきます。

https://www.mext.go.jp/content/20230106-mxt_gakjokik-000023344_22.pdf

https://self-ref-imm-percept.biken.osaka-u.ac.jp

  • 図1. Mincleによる異物認識と免疫応答

  • 図2. 生体防御における自己認識の意義の解明

メンバー

  • 教授: 山﨑 晶
  • 准教授: 藪田 紀一
  • 助教: 石川 絵里
  • 助教: 長江 雅倫
  • 特任研究員: 麻 実乃莉
  • 特任研究員: 伊東 瑛美

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最近の代表的な論文

  • (1) The kinetics of signaling through the common FcRγ chain determine cytokine profiles in dendritic cells. Watanabe M., et al. Sci. Signal. (2023) 16:eabn9909
    (2) Direct activation of microglia by β-glucosylceramide causes phagocytosis of neurons that exacerbates Gaucher disease. Shimizu T., et al. Immunity. (2023) 56:307-19
    (3) Human Dectin-1 is O-glycosylated and serves as a ligand for C-type lectin receptor CLEC-2. Haji S., et al. eLife. (2022) 11:e83037
    (4) Symbiotic bacteria-dependent expansion of MR1-reactive T cells causes autoimmunity in the absence of Bcl11b. Shibata K, et al. Nat. Commun. (2022) 13:6948
    (5) Identification of conserved SARS-CoV-2 spike epitopes that expand public cTfh clonotypes in mild COVID-19 patients. Lu X, et al. J. Exp. Med. (2021) 218:e20211327
    (6) Helicobacter pylori metabolites exacerbate gastritis through C-type lectin receptors. Nagata M., et al. J. Exp. Med. (2021) 218:e20200815
    (7) Lipoteichoic acid anchor triggers Mincle to drive protective immunity against invasive group A Streptococcus infection. Imai T., et al. Proc. Natl. Acad. Sci USA. (2018) 115:E10662-71
    (8) Intracellular metabolite β-glucosylceramide is an endogenous Mincle ligand possessing immunostimulatory activity. Nagata M., et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. (2017) 114:E3285-94
    (9) Protein kinase D regulates positive selection of CD4(+) thymocytes through phosphorylation of SHP-1. Ishikawa E., et al. Nat. Commun. (2016) 7:12756
    (10) C-type Iectin receptor DCAR recognizes mycobacterial phosphatidyl-inositol mannosides to promote a Th1 response during infection. Toyonaga K., et al. Immunity. (2016) 45:1245-57