全身性エリテマトーデスの新たな発症機構を解明(荒瀬研がArthritis and Rheumatology誌に発表)

大阪大学微生物病研究所・免疫学フロンティア研究センター・感染症総合教育研究拠点の荒瀬尚教授らを中心とした京都大学大学院医学研究科、神戸中央市民病院、大阪大学大学院医学研究科、理化学研究所の研究グループは、全身性エリテマトーデスの新たな発症機構を解明しました。

 

全身性の自己免疫疾患の一つである全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus, SLE)ではDNAに対する自己抗体が産生が認められます。一方、HLA関連解析の結果から全身性エリテマトーデスの疾患感受性には特定のHLAクラスIIアリル(注※1)が関連することが知られていましたが、抗DNA抗体産生におけるHLAクラスII分子の機能的な役割はわかっていませんでした。我々は、これまでHLAクラスII分子には、ペプチドばかりでなく、ミスフォールド蛋白質が提示され、様々な自己免疫疾患における自己抗体の産生に関与することを明らかにしてきました。今回、HLAクラスII分子のペプチド結合部位にDNAが結合し、抗DNA抗体の産生に関わる可能性を初めて明らかにしました。

 

遺伝子導入細胞を用いた実験の結果、これまでペプチドのみを提示すると考えられてきたHLAクラスII分子にDNAが提示されることが示されました。特に、全身性エリテマトーデスに対して感受性アリルでは、抵抗性アリルに比べて有意にDNAが結合しやすいことが判明しました。また、DNAのHLAクラスII分子への結合は高親和性ペプチドによって阻害されたことから、DNAはHLAクラスII分子のペプチド結合溝に結合していることが判明しました。さらに、抗DNA抗体をB細胞受容体として発現するレポーター細胞を用いて解析すると、HLAクラスIIに結合したDNAが抗DNA抗体レポーター細胞を活性化することが明らかになりました。これらの結果から、全身性エリテマトーデスにおける抗DNA抗体の産生にはHLAクラスII分子に提示されたDNAが関与している可能性が考えられました。

 

本研究成果は米国リウマチ学会雑誌Arthritis and Rheumatology誌 2022年74巻1号105-111ページに掲載されました。

 

タイトル:“Anti-dsDNA antibodies recognize DNA presented on HLA class II molecules of systemic lupus erythematosus risk alleles”

著者:Hideaki Tsuji, Koichiro Ohmura*, Hui Jin, Ryota Naito, Noriko Arase, Masako Kohyama, Tadahiro Suenaga, Shuhei Sakakibara, Yuta Kochi, Yukinori Okada, Kazuhiko Yamamoto, Hitoshi Kikutani, Akio Morinobu, Tsuneyo Mimori, Hisashi Arase*

*責任著者

 

http://dx.doi.org/10.1002/art.41897

 

用語説明

※1: HLA (ヒト白血球抗原)

ヒトでは主要組織適合遺伝子複合体(MHC)と同義。 HLAクラスI分子とHLAクラスII分子があり、HLAクラスI分子は赤血球を除く全ての細胞に発現しているのに対して、HLAクラスII分子は一部の免疫細胞の表面に発現し抗原提示に関わる。HLAクラスII分子は細胞外から取り込んだペプチドを細胞表面で提示すると考えられていた。