12本に分かれたゲノムを持つウイルスの人工合成に成功(小林研がPNAS誌に発表)

大阪大学微生物病研究所の納田遼太郎 日本学術振興会特別研究員(博士課程)、南昌平特任研究員(常勤)、小林剛教授らの研究グループは、山口大学、国立感染症研究所の前田健部長らの研究グループとの共同研究により、12本の分節に分かれたRNAゲノムを持つウイルスの人工合成法を世界で初めて確立しました(図1)。この技術の開発により、ウイルス遺伝子に様々な変異を導入したウイルスを作製することが可能になったことで12分節のRNAゲノムを持つウイルスの増殖機構や病原性の解明が飛躍的に進むと期待されます。

 

研究の背景

ウイルスには9から12本の分節に分かれたRNAゲノムを持つウイルスグループ(レオウイルス科)が知られています。レオウイルス科には乳幼児に下痢症を引き起こすロタウイルス(11分節ゲノム)やマダニに噛まれることによりヒトに感染するコロラドダニ熱ウイルス(※1)(12分節ゲノム)などの病原ウイルスが含まれています。これまで10本の分節RNAゲノムを持つレオウイルスや11本の分節ゲノムを持つロタウイルスにおいては人工的に任意の組換えウイルスを合成できる技術が既に開発されており、これらの技術を用いて、ウイルス学的研究が進められてきました。しかし、このウイルスグループで分節ゲノムの数が最も多い12分節のRNAゲノムを持つウイルスについては人工合成法が確立されておらず、長い間その開発が望まれていました。

研究の成果

12本の分節ゲノムを持つコロラドダニ熱ウイルスと同じウイルス属のタルミズダニウイルス(※2)の人工合成法の確立を行いました。タルミズダニウイルスの12分節に分かれたRNAゲノムを発現するプラスミドベクターを作製し、これら12種類の全てのプラスミドを同時に培養細胞に導入することでタルミズダニウイルスの人工合成に成功しました(図1)。さらにこの技術を用いて、タルミズダニウイルスの分節遺伝子に変異を加えた組換えウイルスやレポーター遺伝子を発現するウイルスの作製にも成功しました(図2)。

本研究成果の意義

12分節のゲノムを持つRNAウイルスにはコロラドダニ熱ウイルスなどの病原ウイルスが含まれています。本研究成果により、これまでウイルス複製機序、病原性、ウイルス生活環が不明であった12分節のRNAゲノムを持つウイルスの研究が飛躍的に進み、治療法や予防法の開発につながることが期待されます。また、タルミズダニウイルスの人工合成法を用いて研究を進めることで、ウイルス学的知見が蓄積され、ヒトや動物に重篤な疾患を引き起こす他の分節ゲノムを持つRNAウイルスの研究にも広く貢献することが期待されます。

 

本研究成果は、米国科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」(オンライン)に掲載されます。

タイトル: “Development of an entirely plasmid-based reverse genetics system for 12-segmented double-stranded RNA viruses”

著者名: Ryotaro Nouda, Shohei Minami, Yuta Kanai, Takahiro Kawagishi, Jeffery A. Nurdin, Moeko Yamasaki, Ryusei Kuwata, Hiroshi Shimoda, Ken Maeda, Takeshi Kobayashi

 

※1 コロラドダニ熱ウイルス(Colorado tick fever virus)

12分節の二本鎖RNAをゲノムとして持つコロラドダニ熱ウイルスは、ヒトに発熱、悪寒、筋肉痛、腹痛などを引き起こすことが知られている。このウイルスを保有するマダニに咬まれることで感染する。

 

※2 タルミズダニウイルス(Tarumizu tick virus)

国内のキチマダニから最初に分離され、コロラドダニ熱ウイルスと同じレオウイルス科コルチウイルス属に分類される12本の分節RNAゲノムを有するウイルス。今回の研究では、国内の死亡したタヌキから分離されたウイルス株を用いて人工合成法の確立を行った。