劇症型溶血性レンサ球菌が免疫を回避する機構を解明

分子免疫制御分野 山﨑晶教授らの研究グループは、劇症型溶血性レンサ球菌(※1)が、免疫受容体(※2)の働きを阻害する脂質を産生して免疫系から逃れることで劇症化し、重篤な致死性感染症を引き起こすことを明らかにしました(左図)。この脂質の産生経路を阻害することで、感染に伴う致死性症状の治療に繋がることが期待されます。

 

劇症型溶血性レンサ球菌(以下レンサ球菌)は、一般に咽頭炎などでよくみられる細菌です。ところが、一部の人では劇症化し、手足の壊死や多臓器不全を起こし、3割が死に至ることから、「人食いバクテリア」とも呼ばれて恐れられています。これまで、レンサ球菌が免疫系を逃れて体内で増殖するしくみはわかっていませんでした。

研究チームはまず、レンサ球菌が生産する脂質であるモノグルコシルジアシルグリセロール(MGDG)を我々の免疫細胞の表面に発現しているMincleという免疫受容体が認識して免疫反応が活性化し、菌を排除していることを見出しました。一方、一部のレンサ球菌は、この受容体の働きを阻害する別の脂質ジグルコシルジアシルグリセロール(DGDG)(※3)を大量に産生して免疫反応を抑制し、免疫系の攻撃を回避することで劇症化していることが明らかになりました。

この発見を応用し、レンサ球菌がMGDGをDGDGに変換する生合成経路を阻害することができれば、免疫系回避機構をブロックし、重篤な壊死や多臓器不全を防ぐ感染症治療に貢献する可能性があります。病原体を直接殺すのではなく、免疫系を回避させないことで免疫感受性を付与して病原体を排除する、新たな作用機序に基づく感染症治療薬は今後益々必要とされており、実用化に向けた研究が期待されます。

 

本研究成果は、2018年10月23日(火)に米国科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences USA」(オンライン)に掲載されました。

"Lipoteichoic acid anchor triggers Mincle to drive protective immunity against invasive group A Streptococcus infection”

Imai T, Matsumura T, Sabine Mayer-Lambertz S, Wells C, Ishikawa E, Butcher SK, Barnett TC, Walker MJ, Imamura A, Ishida H, Ikebe T, Miyamoto T, Ato M, Ohga S, Bernd Lepenies, van Sorge NM, Yamasaki S.

 

※1. 劇症型溶血性レンサ球菌 Streptococcus pyogenes

群溶血性レンサ球菌とも呼ばれ、咽頭炎など様々な症状を引き起こす。劇症化すると急速に手足の壊死や多臓器不全を引き起し、致死率も高いことから「人食いバクテリア」とも呼ばれる。

 

※2. 免疫受容体

細胞の表面に存在し、外から侵入する病原体や、病原体に感染した細胞を認識して免疫応答を活性化する受容体。我々の体には様々な外敵を認識するため、多様な受容体が備わっている。今回の免疫受容体Mincleは細菌の糖脂質を認識する受容体で、レンサ球菌の他に、結核菌の糖脂質なども認識する。

 

※3. ジグルコシルジアシルグリセロール(DGDG)

モノグルコシルジアシルグリセロール(MGDG)にさらに1分子のグルコースがa-1,2結合した糖脂質。劇症型菌種では含有量が多いことも今回の研究でわかった。

  • 図 劇症型溶血性レンサ球菌による免疫回避機構
    免疫賦活脂質MGDGから、受容体阻害脂質(DGDG)を大量に生合成し、免疫系を回避することで劇症化に寄与していることが明らかとなった。