松浦研の研究成果がNat Commun誌に掲載されました

C型肝炎ウイルス(HCV)は世界で2億人のも感染者が存在し、このウイルスに感染すると、脂肪肝、肝線維化、そして肝癌を発症します。最近、HCVの複製酵素を標的とした有効な抗ウイルス剤が開発され、HCVを駆除できるようになりましたが、耐性ウイルスの出現や、ウイルス排除後の肝癌の発症等の多くの問題が残されています。HCV粒子を形成するコア蛋白質は、感染した細胞のシグナルペプチドペプチダーゼ(SPP、※1)という酵素で切断されることが、粒子形成や肝病態の発症に重要であることが知られていましたが、その詳細は不明でした。
本研究では、SPPの活性を阻害して生じた未成熟なHCVコア蛋白質は、ユビキチンリガーゼであるTRC8によってユビキチン化(※2)され、プロテアソーム(※3)で速やかに分解されることを明らかにしました。HCVのコア蛋白質を発現するマウスは、インスリン抵抗性や脂肪肝を発症しますが、このマウスへのSPP阻害剤の投与やSPP遺伝子の欠損で、これらの病態が改善されました。
ウイルスは変異が激しく、ウイルスのタンパク質をターゲットとした薬剤は耐性ウイルスが出現しやすい傾向にありますが、宿主側のタンパク質であるSPPは変異の激しいHCVに比べて安定であるため、耐性ウイルスの出にくい創薬標的であり、SPP阻害剤はHCVの増殖阻害だけでなく、肝病態の改善も期待できます。

※1:SPP
小胞体膜に存在する蛋白質で、基質となる蛋白質の膜貫通領域で切断する機能を持つ酵素。プロラクチンやMHCクラスIなどを切断する。
※2:ユビキチン、ユビキチンリガーゼ、ユビキチン化
蛋白質にユビキチンと呼ばれる小さなタンパク質が共有結合(ユビキチン化)すると、その蛋白質は分解されるか、他の分子に情報を伝える等の新たな機能が付与される。タンパク質にユビキチンを付加する酵素をユビキチンリガーゼという。
※3:プロテアソーム
複数のタンパク質からなる複合体で、不要となったタンパク質を分解するための装置。

 

プレスリリース資料(PDF)