PLoS Pathog12(2):e1005455 2016/02/22

ネルソンベイオルソレオウイルス(NBV)は1968年に初めてコウモリから分離されて以来、長らく非病原性のウイルスであると見なされてきました。しかし、2000年代に入り、東南アジアを中心に重篤な呼吸器症状を呈した患者からNBVが相次いで分離されたことから、現在では新興の人獣共通感染症と考えられております。これまでNBVの複製機構、病原性発現機構については解明が進んでおりませんでした。 本研究で私達は、遺伝子組換えNBVを人工的に作製することができるリバースジェネティクス(RG)系の確立に初めて成功しました。RG系を用いてウイルス粒子表面に存在するσCの欠損ウイルス(σC-null)を作製し、解析した結果、σCはA549細胞のような一部の細胞株への感染には重要ですが、L929細胞を含む多くの細胞株への感染には必要ではないことが明らかとなりました。これらの結果は、NBVの感染にはσCに依存する経路と他のウイルスタンパク質(σB、μB等)によって介される経路が存在している可能性を示唆しています。これまで、σCのみが細胞への吸着・侵入過程に関与していると考えられてきたことから、本研究の成果はレオウイルス科の感染機構を理解する上で重要な知見であると考えられます。さらに、マウス感染モデルを用いてσCのin vivoにおける意義を調べたところ、in vitro(培養細胞)では必ずしも感染に必要ではないσCがin vivoではNBVの病原性発現に深く関与していることを明らかにしました。これらの成果から、in vivoでのσC依存的な感染経路の重要性が明らかになるとともに、σCおよびσCに対する感染受容体を標的とした阻害薬の開発が感染制御において有効な戦略になるものと考えられます。