Nat Commun. 6:7035 2015/04/29

がん抑制遺伝子であるp16INK4a遺伝子は組織幹細胞や前駆細胞に細胞老化を誘導することで個体老化の進行を促進していると考えられている。しかし、p16INK4a遺伝子を欠損したノックアウトマウスは様々な種類のがんを発症して早期に死亡するため、p16INK4aが本当に個体老化を促進しているかどうかは不明なままである。今回、我々はこの問題を克服するための一つの手段としてp16INK4aノックアウトマウスががんを発症する以前に様々な老化症状を呈して死亡する早老症モデルマウス(klothoマウス)を用いて検討を行った。その結果、klothoマウスにおいてp16INK4a遺伝子をノックアウトすると、様々な老化の症状が緩和し、個体の最大寿命も著しく延長することを見出した。しかし、驚いたことに、この主な原因はklothoマウスにおいて発現レベルが低下している抗老化遺伝子klothoの発現レベルがp16INK4a遺伝子を欠損することで回復したためであることが分かった。更に転写調節領域の解析から通常p16INK4aは転写因子E2Fを抑制することでklotho遺伝子の発現を負に制御していることが明らかになった。これらの結果は、p16INK4aが細胞老化の誘導によるだけではなく、抗老化遺伝子klothoの発現を負に制御することによっても個体老化を促進していることを示しており、個体老化の分子メカニズムのより詳細な解明につながるものと期待される。