Blood. 125(18)2835-44 2015/04/30

血栓症、不育症、妊娠合併症の中には抗リン脂質抗体症候群という自己免疫疾患によって引き起こされる疾患があります。抗リン脂質抗体症候群は、血清蛋白質に対する自己抗体が原因と考えられておりますが、自己抗体がどのように血清蛋白質を認識し、病気を引き起こすかは明らかでありませんでした。本研究によって、血管に炎症がおこると血管内皮細胞に主要組織適合抗原(MHCクラスII分子)が発現し、それに構造が変化した血清蛋白質(β2グライコプロテインI、β2GPI)が結合することが明らかになりました。さらに、抗リン脂質抗体症候群で産生される自己抗体はMHCクラスII分子に提示されたβ2GPIを特異的に認識することが明らかになりました。すなわち、いままでペプチド抗原を提示すると考えられてきたMHCクラスII分子に構造が変化したβ2GPIが結合し、それが抗リン脂質抗体症候群の自己抗体の標的になっているという新たな自己抗体の認識機構が明らかになりました。また、MHCクラスII分子と結合した血清蛋白質を解析することで、従来の臨床検査法と比べて、非常に感度よく抗リン脂質抗体症候群の自己抗体を検出できることがわかり、抗リン脂質抗体症候群の診断にも重要であると考えられます。さらに、MHCクラスII分子に結合した血清蛋白質を発現する細胞が自己抗体によって障害されることから、この新たな自己抗体の認識機構が血栓症や不育症に関与しているという新たな病態メカニズムが考えられました。他の自己免疫疾患でも同様なMHCクラスII分子に結合した蛋白質が発症に関与していると考えられ、本研究は不育症や血栓症を含めた多くの自己免疫疾患の治療薬や診断薬の開発に貢献すると期待されます。