Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 112(37):11612-11617 2015/08/24

Epstein-Barrウイルス(EBV)はヒトに感染するヘルペスウイルスで、主にB細胞に感染し、終生保持される。EBVは伝染性単核球症を引き起こすことが知られるほか、疫学的知見などから全身性エリテマトーデスや多発性硬化症などの自己免疫疾患との関連が示唆されてきた。
EBV感染細胞で発現するウイルス由来膜タンパク質であるLMP2AはB細胞の生存を促進すること(B細胞抗原レセプター(BCR)シグナルを模倣)がこれまでの研究で明らかにされてきた。しかし、LMP2Aが生体内において発現する時期は、胚中心B細胞の分化段階に限られており、この時期に適切にこのタンパク質を発現させた解析はこれまで行われておらず、LMP2Aの生体内での働きは明らかではなかった。
本研究では、胚中心B細胞で特異的にLMP2Aを発現するマウスを作製し、LMP2Aが与える影響を検討した結果、このマウスは自己抗体の産生、抗体複合体の糸球体沈着といった自己免疫疾患様の症状を呈することが明らかとなった。このことから、これまでEBV感染との関連を指摘されていた自己免疫疾患がLMP2Aの発現によって発症することが初めて示され、ヒトにおけるEBV関連自己免疫疾患の発症をLMP2Aが促進していることが示唆された。さらに、LMP2Aを発現するB細胞ではB細胞選択異常によりBCRの抗原親和性が減少していることや抗体産生細胞への分化を促進する因子であるZbtb20の発現量が亢進しており、実際に抗体産生細胞への分化が促進していることも明らかとなった。この結果から、LMP2Aは抗体の親和性が低く、本来ならば死にゆく運命のB細胞生存を助長することによって、EBV感染細胞の生存や感染の成立に寄与しているものと考えられ、LMP2AをターゲットとしたEBV関連自己免疫疾患の治療、予防法の確立が期待される。