Cell Rep. 13(2):223-33 2015/10/13

トキソプラズマはエイズや抗癌剤投与下にある免疫不全の大人で致死的な脳炎や肺炎を引き起こす病原体です。また、健康な妊婦が初感染すると胎児に垂直感染し流産や死産、さらには新生児がトキソプラズマに感染した状態で生まれ先天性疾患の原因ともなります。現在、ヒトで使用可能なトキソプラズマのワクチンは存在おらず、マウスなどの実験動物を用いて不活化ワクチン開発のための基礎研究が進んでいます。
しかし、トキソプラズマ不活化ワクチンがどのようにして免疫的効果を発揮するのか、特にワクチンを投与された側の体内でどのような免疫反応が最初に起きることが重要なのかについては、よく分かっていませんでした。
本研究で、以前からオートファジー(細胞の自食作用、※1)に関与する分子として有名であったp62について
① インターフェロン ガンマ(※2)刺激依存的に宿主タンパク質であるp62がトキソプラズマに蓄積すること
② トキソプラズマ感染細胞では、p62とインターフェロン ガンマ依存的にキラーT細胞活性化能が高まること
③ p62欠損マウス個体で、トキソプラズマ不活化ワクチン投与に対するキラーT細胞(※3)活性が著しく低下すること
を示しました。
本研究成果は、近年我が国においても症例報告が急増しているトキソプラズマ症に対して、p62という新たな分子を標的とした新規のトキソプラズマ不活化ワクチン開発戦略を提供できるものとして大いに期待できます。

※1:オートファジー
細胞が自己成分を分解する機能。タンパク質やミトコンドリアなどの自己成分をリソソームで分解するための機構。細胞が飢餓状態に陥った際の栄養源確保や、有害物の隔離除去などに加え、生活習慣病などの疾患発症の抑制や、老化、免疫などにおいて重要な生理機能を持つことが明らかになっている。
※2:インターフェロンガンマ
病原体や腫瘍細胞などに応答して分泌され、病原体に抵抗できるよう免疫系や炎症反応を制御するタンパク質。アルファ、ベータ、ガンマなど複数のサブタイプが発見されており、それぞれ異なる生理機能を持つ。今回は、インターフェロンガンマ(IFN-γ)による免疫反応を研究している。
※3:キラーT細胞
白血球の一種であるT細胞の一つ。ウィルスなどの病原体に感染した細胞や、ガン細胞などを殺す働きをする。