橘 優汰 (医D2/2023年時点)感染病態分野

Q1 微研に来られた経緯を教えて下さい。

学部時代はどちらかというと宿主側(免疫学)に興味がありました。そんな中、現在の指導教官である山本雅裕先生のインタビューをたまたま医学雑誌で目にして微生物病研究所を知りました。同時期にトキソプラズマという寄生虫に関する革新的な論文が発表されたのをきっかけに、病原体の学問は発展途上にあり未知なことだらけでこれからどんどん面白くなるのではと興味を持ちました。初期研修2年目の時期に進路を決定する必要がありましたが、ここで挑戦しなければ一生後悔すると思い基礎の世界へ進むことにしました。

医学部の中の比較的均質な集団で過ごしていると、居心地は良いのですが良くも悪くも甘えの様なものが生まれてしまいます。そのため言い訳が許されない環境に敢えて身を置いて徹底的に基礎研究に打ち込もうと思いました。そこで国内にある病原体の研究施設として有名な微研を選び、その中でも宿主研究と病原体研究の二刀流の山本研への進学を決めました。

Q2 研究の道を選んだ理由を教えて下さい。

父親が基礎研究者でしたので、漠然と自分も同じ道に進みたいとは思っていました。自分の行なった仕事で評価してもらえるというのは非常にフェアであると感じました。そして臨床と違って基礎研究では自分の色を出すことが可能である気がしました。自己表現とでもいうのでしょうか。自分の力を試せるのではないかと。論文が出せれば自分の存在した証が残せるように思いました。

Q3 現在の研究テーマを教えて下さい。

私が取り組んでいる研究テーマは宿主・病原体相互作用と呼ばれるものです。宿主(我々)と病原体(ウイルス、細菌、寄生虫、真菌)が繰り広げる攻防の分子メカニズムを明らかにすることが目的です。寄生・感染では異なる生命がお互いの存在をかけてぶつかりあっており、私はそこに非常に魅力を感じています。真の意味で感染症を理解するためには宿主側と病原体側の両方を意識する必要がありますが、私は主に病原体側の視点からこの課題に取り組んでいます。具体的にはトキソプラズマ原虫という寄生虫をモデルに、彼らがどのように病原性を発揮するかの解明を目指しています。トキソプラズマはヒトの病気の原因にもなる恐ろしい病原体ですが、我々と同じ真核生物であり8000以上の遺伝子を有しています。しかし、どの遺伝子が病原性発揮に重要かはほとんどわかっていません。私はトキソプラズマの遺伝子を網羅的にスクリーニングする技術を開発することでこの謎に挑もうとしています。そんなトキソプラズマですが、顕微鏡でみるとグルグルと活発に動き回っています。これがとても可愛いらしく癒されています。

Q4 博士号取得後はどのような研究者になりたいですか?

自分にしかできない仕事がしたいです。自分の研究を基に、そこからたくさんの研究が生まれるような仕事が理想です。今のところ、特定の分子や生物、疾患にそこまでのこだわりはないので、面白いものならなんでもやりたいです。

とは言っても最終的には臨床へと還元できる礎となる研究もできればと思っています。世間は新型コロナ一色ですが、他にも臨床上の脅威となっている感染症は以前から多く存在します。大学院で身につけた基礎研究の力でこれらの問題に取り組みたいと思っています。

Q5 博士号取得を検討している皆さんにメッセージをお願いします。

時間が経てば経つほど身動きがしづらくなって、思い切った挑戦ができなくなります。長い人生の中で基礎研究に打ち込む期間は無駄にならないと信じています。微研は優れた研究環境(ヒトとモノ)を有しており、基礎研究を行うにはうってつけの場所ではないでしょうか。