病気のバイオサイエンス

大阪大学 微生物病研究所

last up date : 23 July 2004

感染に応答する宿主免疫機構 -Innate immunityとAdaptive immunity

審良 静男 ( Shizuo AKIRA)

自然免疫学分野

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要旨

 生体は、感染初期に迅速に免疫応答を行うためのシステムを自然免疫として有している。この自然免疫において、抗原提示細胞に発現されている、Toll様受容体と呼ばれる一群の膜タンパクが極めて重要である。Toll様受容体は、ヒトでは、現在、10個同定されており、それらは、各々微生物特有の種々の分子構造を認識する。Toll様受容体は、認識後、サイトカイン産生、あるいは、種々の共刺激分子の発現増強を誘導し、Tリンパ球の活性化を惹起し、免疫応答を誘導する。このことから、Toll様受容体は、アジュバント受容体であると言い換えることもできる。Toll様受容体システムを適切に理解することは、感染症ばかりでなく、ガンやアレルギーなど免疫疾患を制御するための有効な手段を獲得することにも非常に有用であると考えられる。本稿では、Toll様受容体の機能に関して、最近の知見を概説する。

はじめに

 ヒトを含む高等動物は、自然免疫Innate immunityと獲得免疫Adaptive immunityを協調させることにより、病原微生物に対処する(表1)。獲得免疫を担うリンパ球は、遺伝子再構成を行うことにより、抗原に対して高い親和性を獲得し、また、長期間生体内でメモリー細胞として存続できる。このように、獲得免疫は、認識特異性および免疫記憶といった利点を有している。しかし、獲得免疫の成立には数日程度時間がかかるので、獲得免疫だけでは有効な防御機構とはならない。特に感染初期には、微生物を感知し、迅速に対応できるシステムが必要であるが、この過程に関与しているのが自然免疫である。自然免疫は、マクロファージ、樹状細胞などいわゆる抗原提示細胞により担われている。これらの細胞は、遺伝子再構成を行えないので、微生物を特異的に認識はしないと考えられていた。しかし、これらの細胞も、外来微生物を認識できるシステムを有していることがあきらかになってきた。この微生物認識に必須の機能分子が、Toll様受容体(Toll-like receptor, TLR)と呼ばれる一群の膜タンパクである。


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表1 自然免疫と獲得免疫の比較

1. Toll様受容体とは?

 Toll様受容体の名前は、ショウジョウバエのTollと呼ばれる膜タンパクに構造が類似していることに由来する。Tollは、元々、個体発生の際の前後軸の決定に関与する機能分子として同定されたが、その後、Tollの変異により、真菌に対する抵抗性が低下することから、真菌感染防御にも必須であることが明らかにされた。TollもToll様受容体も、細胞外領域にはロイシンに富む繰り返し構造、細胞質内領域にはIL-1受容体とも共通する構造、Toll/IL-1受容体相同性領域 (Toll/IL-1R homologous domain、TIRドメイン)を有している。現在、ヒトのToll様受容体ファミリーメンバーは10種類同定されている(図1)。


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図1 ヒトToll様受容体の進化系統樹とその主なリガンド。点線で示したように、リガンドの性状は、おおまかに脂質系リガンド、タンパク系リガンド、および、核酸系リガンドに分類できる。

2. Toll様受容体による微生物認識

 Toll様受容体は、種々の病原体特有の分子構造の認識に関与する。この分子構造は、個々の病原体に特有というわけではなく、一群の微生物に共通にみとめられる構造である。そして、これらの構造は、宿主である生体内には発現されていない。すなわち、生体には存在しない構造、他から侵入してきた構造を感知するのがToll様受容体である。Toll様受容体のリガンドは、いずれも免疫応答を強く活性化し、アジュバントとして機能する。たとえば、最も代表的で広く研究されているのは、グラム陰性菌に共通して存在するリポ多糖(lipoplysaccharide: LPS)である。LPSは、菌体外膜の主成分であり、TLR4により認識される(図1)

 グラム陽性菌は、LPSを持たないが、やはり、強い免疫賦活作用を持つ。外膜には、ペプチドグリカンの厚い層が存在し、その中には、種々の脂質タンパク、脂質ペプチドが存在し、これらが免疫活性化の主成分となっている。また、マイコプラズマは、このような細菌と異なり、LPSもペプチドグリカンなどから成る外膜も持たない。しかし、やはり、免疫活性化能を有しており、その作用は細胞質膜に存在する種々の脂質タンパク、脂質ペプチドに由来する。これら種々の菌体膜成分はTLR2により認識される(図1)

 また、脂質ばかりでなく、タンパクもToll様受容体のリガンドとして機能する。腸内細菌など運動性細菌が保有する鞭毛の中には、免疫応答誘導作用を有するタンパクとして、フラジェリンが知られている。このフラジェリンの認識にはTLR5が関与している(図1)

 微生物由来分子で、免疫を活性化するのは、脂質、タンパク成分ばかりではない。 1980年代に、BCGの抗腫瘍効果がDNA成分によるものであることが示された。細菌由来のDNAと比較して、哺乳類由来のDNAにおいては、シトシン、グアニンが隣り合って存在する頻度が低く、また、その大部分がメチル化されている。すなわち、非メチル化CpGを含むDNA(CpG DNA)は、細菌特有の分子構造であるということになる。また、20-30塩基からなる小さい合成DNAにおいても、同様の免疫活性化能がみとめられ、抗腫瘍ワクチンとしての効果が期待されている。このCpG DNAの免疫能活性化作用には、TLR9が必須である(図1)

 また、DNAばかりでなく、ウイルス感染の際に産生される二本鎖RNAも微生物由来分子構造として、宿主の免疫機能を活性化する。この二本鎖RNA、および、二本鎖RNAと機能的に類似した物質であるポリイノシンポリシチジン酸(polyinosinic-polycytidylic acid, polyI:C)はTLR3により認識される(図1)

 さらに、このような微生物由来因子ばかりでなく、化学合成物質の中にもToll様受容体により認識されるものがある。イミダゾキノリン誘導体は、種々のサイトカイン産生を誘導し、抗ウイルス作用を発揮することが知られている。この作用には、TLR7が必須である(図1)。現在、TLR7のリガンドは他にも同定されているが、いずれも化学合成物質である。イミダゾキノリン誘導体に似た物質が自然界に、たとえば、ウイルス由来因子として存在するかどうかということは、非常に興味ある課題であるが、現時点ではまだ報告されていない。

 これらToll様受容体による微生物認識には、Toll様受容体によるヘテロ2量体形成も重要な役割を果たす。たとえば、TLR2は、TLR6とヘテロ2量体を形成した場合には、マイコプラズマ由来リポペプチドを、TLR1とヘテロ2量体を形成した場合には、細菌由来リポペプチドを認識する(図1)。細菌由来リポペプチドは、アミノ末端のシステインに脂肪酸側鎖が3本あるが、マイコプラズマ由来リポペプチドでは、2本しかなく、TLR2を含む2量体は、この微妙な違いを区別している。すなわち、TLR2は、2量体のパートナーを変換することにより、微妙な構造の識別を可能にしている。

 以上のように、Toll様受容体は、多彩な微生物由来分子構造の認識に関与している。

3. Toll様受容体の生物学的機能

1) 炎症反応の形成

 Toll様受容体シグナルにより、IL-1,IL-6などの炎症性サイトカインの発現が誘導される。これらのサイトカインは、発熱反応を誘導し、接着分子の発現を増強し、好中球、単球など炎症細胞の接着能を促進したりする。また、各種ケモカインの産生が誘導され、炎症細胞の組織への浸潤が誘導される。さらに、血管透過性も亢進し、滲出液、タンパクも炎症部位に蓄積する。この結果、発赤、腫脹、疼痛、発熱を四徴とする炎症反応が形成される。一連の炎症反応は、感染局所において、感染巣の拡大を防ぎ、感染の終結を促進するために必須である。このような炎症像形成の引き金として、Toll様受容体は機能している。


2) 獲得免疫の樹立

 自然免疫の活性化に引き続き、獲得免疫が誘導される。この過程には、樹状細胞と呼ばれる抗原提示細胞の成熟が必須であり、Toll様受容体シグナルにより制御されている。成熟樹状細胞は獲得免疫担当細胞であるT細胞と相互作用し、T細胞を活性化する(図2)。T細胞の増殖には、先述のように樹状細胞からの抗原提示、すなわち、T細胞受容体を介したシグナルが必須である。しかし、このシグナルだけでは、T細胞は、むしろ免疫不応答(免疫寛容)の状態に陥ってしまう。T細胞が増殖するためにはCD80, CD86など共刺激分子と呼ばれる膜タンパクからのシグナルがさらに必要となる。Toll様受容体からのシグナルは、これらの共刺激分子の発現を増強する。

 また、T細胞は、産生するサイトカインが異なる2種類のヘルパーT細胞へと分化する。インターフェロンγを産生する1型ヘルパーT(Th1)細胞は、主として、細菌、ウイルスに対する細胞性免疫に、IL-4を産生する2型ヘルパーT(Th2)細胞は、寄生虫、アレルギーに対する液性免疫に関与する。すなわち、このヘルパーT細胞の分化方向の決定は病原体に応じた適切な生体防御機構を確立するために重要である。通常、Toll様受容体からのシグナルは、IL-12,IL-18などいわゆるTh1誘導型サイトカイン産生を惹起する(図2)。従って、Toll様受容体シグナルにより成熟した樹状細胞は、抗原提示、共刺激分子の発現により、抗原特異的T細胞の増殖を誘導し、また、サイトカイン産生により、T細胞の分化方向の決定にも関与していることになる。すなわち、Toll様受容体シグナルは、抗原提示細胞を介して、獲得免疫の活性化を量的にも質的にも制御している。


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図2 樹状細胞とT細胞の相互作用。

3) I型インターフェロンの誘導

 I型インターフェロンは、抗ウイルス活性を有する遺伝子の発現、および、MHC分子の発現を増強し、樹状細胞の成熟を誘導することにより、ウイルスに対する生体防御機構を活性化する。I型インターフェロンは、非感染時には、発現は低く、感染後に著明に発現が増強されるので、その発現の調節は、生体防御にとって極めて重要である。一部のToll様受容体は、このI型インターフェロンの発現を誘導する。

 I型インターフェロンには、10種類以上のサブタイプから成るαと1種類のβが存在する。いずれのI型インターフェロンも1種類の共通の受容体を介して、生物学的機能を発揮する。しかし、αとβとで、産生細胞、遺伝子発現に必要な転写因子が異なっている。そして、Toll様受容体は、発現分布、活性化する転写因子群が微妙に異なっており、多様なI型インターフェロン誘導能を示す。

 現在知られているToll様受容体の中で、インターフェロンαを誘導できるのは、TLR3,TLR7,TLR9 の3種類である。ヒト樹状細胞の中では、形質細胞様樹状細胞が、インターフェロンαの産生能が非常に強い細胞として同定されている。この細胞には、TLR7,TLR9が発現されており、確かにこれらのリガンドの刺激で、インターフェロンαの産生が誘導される。しかし、この樹状細胞はTLR3を発現しておらず、二本鎖RNAには反応しない。二本鎖RNA刺激でインターフェロンαを産生するのは、形質細胞様樹状細胞とは異なる系統に属する樹状細胞である。実際のウイルス感染の際に、これらの樹状細胞亜集団、および、これらのToll様受容体シグナルがどのように関与しているのかは今後の興味ある課題である。

 これら以外のToll様受容体刺激では、インターフェロンαは誘導されない。しかし、TLR4刺激により、インターフェロンαは誘導されないが、インターフェロンβは誘導される。インターフェロンβを産生する細胞は、生体内に広く分布しており、細菌感染の際の免疫応答の調節に関与していると考えられている。一方、TLR2刺激では、I型インターフェロンは、αもβも誘導されない。このように、I型インターフェロンの誘導パターンにより、Toll様受容体はいくつかのサブグループに分類できる。

4. Toll様受容体のシグナル伝達機構

1) Toll様受容体に共通の経路

 Toll様受容体のシグナル伝達機構には、どのような分子機構が関与しているのだろうか。先述のように、 IL-1受容体、および、Toll様受容体の細胞質内領域には、TIRドメインと呼ばれる共通の領域が存在する。この領域は、TIRドメインを持つMyD88という細胞質内に存在するアダプター分子と会合する。この会合は、最終的には、NF-κB, MAPK(mitogen-activated protein kinase)カスケードを活性化に至るシグナル伝達経路を活性化する。この経路は、IL-1受容体、Toll様受容体ファミリーに共通の経路である。

 この共通の経路の重要性は、MyD88欠損マウスの解析により、明らかとなった。この変異マウスにおいては、IL-1ファミリーに属するサイトカイン(IL-1,IL-18)による生物学的作用がすべて欠如していた。さらに、TLR2,TLR4,TLR7, TLR9いずれの刺激にても、正常マウス由来のマクロファージはサイトカインを産生するが、MyD88欠損マウス由来のマクロファージでは、サイトカイン産生は、全く認められなかった。すなわち、MyD88は、Toll様受容体刺激によるサイトカイン産生誘導に必須であった(図3)


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図3 Toll様受容体アダプター分子の機能。MyD88依存性経路は、実線で、MyD88非依存性経路は、点線で示されている。

2) 各Toll様受容体に特有の経路

 MyD88欠損マウスの解析により、さらに、MyD88を介さない経路の存在、および、Toll様受容体シグナル伝達の多様性が明かとなってきた。このシグナル伝達の多様性には、細胞質内領域と会合するアダプター分子が重要である(図3)。TLR3,TLR4以外のToll様受容体のシグナルは、すべて、MyD88を介したシグナル伝達経路に依存している。しかし、TLR4の場合は、炎症性サイトカインの誘導だけがMyD88に依存しており、インターフェロンβの誘導、樹状細胞の成熟は、MyD88以外のアダプターを使用している。TIRドメインを持つ細胞質内分子としては、MyD88以外に、4つの分子、TIR domain-containing adapter protein (TIRAP), TIR domain-containing adapter inducing IFN-beta (TRIF)/ TIR domain-containing adaptor molecule-1 (TICAM-1), TRIF-related adapter molecule (TRAM), sterile alpha motif and Armadillo motif domain-containing protein (SARM)が存在する。このうち、TIRAPは、MyD88と協調して、TLR4による炎症性サイトカイン誘導に関与している。また、TRIF/TICAM-1は、TLR4下流のMyD88/TIRAP非依存性経路、すなわちインターフェロンβ遺伝子発現誘導に必須の役割を果たしている。TRIF/TICAM-1は、TLR3によるインターフェロンβ遺伝子発現誘導にも必須である。一方、TRAMは、TLR4,TRIF/TICAM-1と会合することにより、TLR4シグナルに必須の役割を果たしているが、TLR3シグナルには必須ではない。現在、SARMの機能は不明である。

TLR2,TLR9のシグナルは、すべてMyD88に依存しているが、その分子機構は、異なっている。たとえば、TIRAPは、TLR2シグナルに必須であるが、TLR9シグナルには関与していない。また、TLR9シグナルは、I型インターフェロンを誘導できるが、TLR2シグナルは、誘導できない。したがって、TLR9シグナルには、MyD88と協調して作用する未知の機能分子が関与している可能性が考えられている。

5. Toll様受容体と疾患

 Toll様受容体およびそのシグナル伝達分子に遺伝的変異を有する症例が報告されている。たとえば、TLR4, TLR1の異常の保有者は、それぞれのリガンドに対する応答性に障害が認められた。また、Toll様受容体のシグナル伝達分子IL-1R-associated kinase-4 (IRAK-4)の欠損保有者は、グラム陽性菌に対して易感染性を示し、その患者由来の血液細胞は、IRAK-4欠損マウス由来の細胞と同様に、IL-1, および種々のToll様受容体リガンドに対する刺激にほとんど反応しなかった。今後さらに種々の変異が同定されると考えられる。

6. 終わりに

 1950年代から、結核による日本人死亡数は激減し、1980年にWHOが天然痘根絶を宣言した頃、感染症はほぼ制圧されたのではないか、と楽観視された。しかし、エイズの出現、結核の再燃、最近では、重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行などにより、また、国際交流の活発化による、伝染経路の多様化、スピード化の問題も加わり、感染症対策は、今日の医療においても極めて重要な問題となっている。

ここで述べたように、Toll様受容体は、感染抵抗性の分子基盤として機能している。また、宿主の免疫応答を高める点から、抗ガン免疫の手段として、さらに、強いTh1誘導作用を有している点から、アレルギー反応の制御手段としても非常に重要である。Toll様受容体を介した刺激は、自然免疫のレベルで生体免疫を増強させるので、不要なTh1反応の増強を引き起こすかもしれないという短所を持つものの、ガン抗原、アレルゲンを同定する必要がないという長所も持っている。これらの長所、短所を踏まえながら、Toll様受容体システム、樹状細胞活性化機構を解明することにより、より優れた免疫応答制御手段が獲得できることが期待されている。

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プロフィール

審良 静男 ( Shizuo AKIRA)

自然免疫学分野・教授


E-Mail sakira@biken.osaka-u.ac.jp


1953年大阪府東大阪市生まれ
1971年大阪府立高津高校卒業
1977年大阪大学医学部卒業
1978-80年堺市立病院内科医師
1984年大阪大学大学院医学研究科博士課程修了
 日本学術振興会博士研究員
 カリフォルニア大学バークレー校博士研究員
 大阪大学細胞工学センター免疫研究部門助手
 同大学細胞生体工学センター助教授
 兵庫医科大学教授
1999年大阪大学微生物病研究所教授

趣味 : 読書(とくに最近は,出張の新幹線の中で絵画に関する本と、いわゆる古典名作を読みつづけてる。1993年に読んだものとして、フランス 印象派に関するもの、フェルメールに関するもの、魔の山、ユリシーズ、ジ ャン・クリストフ、ファウストなど)


Key Word : Toll-like receptor, 自然免疫、樹状細胞、マクロファージ、ノックアウトマウス、シグナル伝達、NF-kB, インターフェロン、NF-IL6, アダプター