腸炎ビブリオの病原性遺伝子発現の増幅機構を発見(飯田研がPLOS Pathogensに発表)

細菌感染分野のDhira Saraswati Anggramuktiさん(生命機能研究科博士課程)、石井英治助教(感染症総合教育研究拠点兼任)らの研究グループは、食中毒の主要な原因菌である腸炎ビブリオが病原性制御因子の自己遺伝子発現活性化により病原因子の発現を増幅する仕組みを明らかにしました。

【研究成果のポイント】

  • 腸炎ビブリオの病原性制御因子VtrBの自己遺伝子発現活性化を発見した。
  • VtrBの自己遺伝子発現活性化は一般的な自己プロモーターの活性化によるものでなく、VtrBにより活性化された上流遺伝子群からの転写が下流のvtrB遺伝子までリードスルーすることによってもたらされることを解明した。
  • VtrBの自己遺伝子発現活性化は病原遺伝子の発現を増幅し、腸炎ビブリオの病原性の発揮に重要となることを明らかにした。

 

【本研究の内容】

腸炎ビブリオは1950年に本研究所において発見された、食中毒の代表的な原因細菌です。腸炎ビブリオの腸管感染に重要な病原因子としてⅢ型分泌装置(*1)が報告されています。このⅢ型分泌装置の遺伝子群の発現は病原性制御因子VtrBによって制御されることが知られていましたが、その遺伝子発現制御機の詳細は依然として不明な点が多い状況でした。

今回、研究グループはVtrBが自己遺伝子の発現を活性化することで自身の発現を増強していることを見出しました。さらに、このVtrBの自己遺伝子発現活性化の機序が一般的に知られる自己プロモーターの活性化によるものでなく、VtrBにより活性化された上流遺伝子群の転写が転写終結部位であるターミネーターで完全に終結されずにvtrB遺伝子まで伸長するリードスルー転写によってもたらされることを示し、その結果として形成される遺伝子発現増幅ループによるVtrB発現の増強がⅢ型分泌装置遺伝子群の発現の活性化ならびに腸炎ビブリオの病原性の発揮に重要であることを明らかにしました。本成果は腸炎ビブリオの病原性発現制御機構のみならず細菌の遺伝子発現制御の複雑性を理解する上で有用な知見であり、この病原遺伝子発現活性化機構を標的とした腸炎ビブリオの感染制御法の開発に繋がることも期待されます。

 

本研究成果は米国科学誌「PLOS Pathogens」に3月27日(水)に公開されました。

タイトル:“The read-through transcription-mediated autoactivation circuit for virulence regulator expression drives robust type III secretion system 2 expression in Vibrio parahaemolyticus

著者名:Dhira Saraswati Anggramukti#, Eiji Ishii#, Andre Pratama, Mohamad Al Kadi, Tetsuya Iida, Toshio Kodama, Shigeaki Matsuda*(#共同第一著者、*責任著者)

 

*1: Ⅲ型分泌装置

グラム陰性細菌が持つ注射針のような構造のタンパク質分泌装置。Ⅲ型分泌装置を介して細菌はエフェクターと呼ばれる自身の病原因子を宿主細胞内に直接注入する。