多倍体化は肝がん予後を予測する重要な因子であることを明らかに(原研がBr. J. Cancerに発表)

遺伝子生物学分野の松本知訓 助教、原 英二教授(兼:免疫学フロンティア研究センター、感染症総合教育研究拠点)、神戸大学大学院医学研究科消化器内科学分野の松浦 敬憲 大学院生、上田 佳秀 特命教授(神戸大学)らの研究グループは、ヒト肝細胞癌(※1)の性質を決めるうえでゲノムの多倍体化(※2)が深く関わっていることを明らかとしました。特に、多倍体化を示す肝がんは特徴的な組織像や遺伝子発現を示し、その他のがんに比べ予後が悪いことを明らかにしました。

【研究成果のポイント】

  • ヒト肝細胞癌のうち、約1/3はゲノムが多倍体化していることを明らかとした。
  • 多倍体肝細胞癌は2倍体癌とほぼ同サイズの腫瘍であっても、腫瘍マーカーを高発現し、手術切除後の予後が悪いことを見出した。
  • 多倍体肝細胞癌は、macrotrabecular-massive patternと呼ばれる組織像を高頻度に呈し、polyploid giant cancer cell(PGCC)(※3)と呼ばれる巨大な癌細胞を多く含むなど、特徴的な組織像を示すことを見出した。
  • 多倍体肝細胞癌で高発現する遺伝子としてUBE2C(※4)を同定し、UBE2Cの発現とPGCCの存在は、肝がんの多倍体化を示唆するマーカーとなることを示した。

 

肝がんの中でも最も主要なタイプである肝細胞癌の中には、通常よりもゲノムが倍加し多倍体となったがんが存在することが知られていましたが、多倍体化した肝がんの詳細な特性はこれまでほとんど未解明でした。

今回、研究グループは肝がんにおける多倍体化の意義を明らかにするため、肝がん手術検体の病理切片から多倍体化を検出する実験系を構築し、多倍体肝がんの頻度や特徴を明らかにしました。多倍体化は肝細胞癌のうち約1/3と高頻度に認められ、また2倍体肝がんと比べ予後が悪いことが明らかとなり、多倍体化は肝がんの予後を予測する重要な因子となることが示されました。さらに多倍体肝がんは特徴的な組織像や遺伝子発現を示すことから、今後それらに着目することで、予後が悪い肝がんに特異的な治療の開発へとつながっていくことが期待されます。

 

本研究成果は、英国科学誌「British Journal of Cancer」に、2023年9月15日に公開されました。

タイトル:“Histological diagnosis of polyploidy discriminates an aggressive subset of hepatocellular carcinomas with poor prognosis”

著者名:Takanori Matsuura, Yoshihide Ueda, Yoshiyuki Harada, Kazuki Hayashi, Kisara Horisaka, Yoshihiko Yano, Shinichi So, Masahiro Kido, Takumi Fukumoto, Yuzo Kodama, Eiji Hara, Tomonori Matsumoto* (*: Corresponding Auhtor)

DOI: https://doi.org/10.1038/s41416-023-02408-6

 

【用語説明】

※1肝細胞癌

ヒト肝がんの中でも最も主要なタイプで、ウイルス性肝炎や脂肪性肝炎などの慢性的な肝障害が原因で発癌する。

 

 ※2多倍体化

通常、ヒトの細胞は各染色体を2本ずつ持った2倍体と呼ばれるゲノムを持つが、このセットが4本ずつ、8本ずつなど倍加した状態のこと。

 

 ※3 Polyploid giant cancer cell (PGCC)

周囲のがん細胞よりも著しく細胞や核のサイズが大きいことで特徴づけられる細胞。

 

※4 UBE2C

細胞の増殖などに関わる遺伝子で、ユビキチン化というたんぱく質の修飾で重要な役割を果たす遺伝子。