ハンセン病を起こすらい菌が マクロファージを攪乱する仕組みを発見(山崎研がACS Central Scienceに発表)

分子免疫制御分野の山崎晶教授 (免疫学フロンティア研究センター、感染症総合教育拠点兼務)、Jeroen Codée教授 (ライデン大学) の研究グループは、らい菌に含まれるフェノール糖脂質-III (PGL-III) が自然免疫を活性化することを明らかにしました。

【研究成果のポイント】

  • らい菌※1がなぜ宿主免疫を逃れ、潜伏しているのかが明らかとなった。
  • その理由は、免疫賦活脂質(今回新たに発見)を素早く失活させる経路の獲得であった。
  • この経路を阻害できれば、本来備わる免疫系による効率的ならい菌の排除が期待できる。

 

PGL-IIIはらい菌に少量しか含まれないのに対して、PGL-IIIを中間体として生合成される免疫抑制成分PGL-I (フェノール糖脂質-I)※2は大量に存在します。らい菌はPGL-IIIを素早い酵素反応によりPGL-Iに変換することで、宿主免疫による攻撃を免れていると考えられます (左図)。

 

本研究成果は、米国科学誌 “ACS Central Science” に、7月12日(水)21時 (日本時間) に公開されました。

タイトル: “PGL-III, a rare intermediate of Mycobacterium leprae phenolic glycolipid biosynthesis, is a potent Mincle ligand”

著者名:Shigenari Ishizuka#, J. Hessel M. van Dijk#, Tomomi Kawakita, Yuji Miyamoto, Yumi Maeda, Masamichi Goto, Guillaume Le Calvez, L. Melanie Groot, Martin D. Witte, Adriaan J. Minnaard, Gijsbert A. van der Marel, Manabu Ato, Masamichi Nagae, Jeroen D. C. Codée, and Sho Yamasaki (#Equally contributed)

DOI:https://doi.org/10.1021/acscentsci.3c00040

 

※1らい菌

ハンセン病の原因菌。結核菌などと同じ抗酸菌群に属し、その中でもとりわけ免疫応答を起こしにくい。感染力は低いものの、感受性の高い宿主にひとたび感染すると、免疫による排除を受けにくく、持続感染や潜伏感染を引き起こす。

 

※2 PGL-I (フェノール糖脂質-I)

らい菌特有の糖脂質の一つで、菌体に含まれる割合が非常に高い。免疫を抑制する作用に加えて、ハンセン病に特徴的な神経障害を引き起こす要因であると言われている。