ゴーシェ病の神経症状発症の新たな分子メカニズムを解明(山崎研がImmunityに発表)

分子免疫分野 清水隆特任研究員、Charles Schutt博士、山﨑晶教授(免疫学フロンティア研究センター、感染症総合教育研究拠点、ワクチン開発拠点先端モダリティ・DDS研究センター兼任)らの研究グループは、ゴーシェ病発症の分子メカニズムの一端を解明しました。

【研究成果のポイント】

  • 治療が困難な致死性の遺伝性難病であるゴーシェ病で蓄積するグルコシルセラミド※1が、ミクログリア※2の活性化を直接誘導していることを明らかにした。
  • 活性化したミクログリアが神経細胞を食べて(貪食※3して)しまうことで、神経細胞が減少し、致死性の障害に繋がることが判明した。
  • この新たな経路を、既に承認済みの医薬品でブロックすると神経症状・生存が劇的に改善し、速やかに臨床に応用可能な治療法を見出すことができた(ドラッグリポジショニング※4)。

 

ゴーシェ病は遺伝子変異によりグルコシルセラミドが全身に蓄積することで、主に小児期に発症する疾患です。合併する様々な臓器障害の中でも中枢神経障害は特に重症ですが、詳細な分子メカニズムは不明で有効な治療法も存在しません。

今回、山﨑教授らの研究グループは、脳内に蓄積したグルコシルセラミドによって直接活性化されたミクログリアが、神経細胞を生きたまま貪食することで神経細胞死を引き起こしていることを明らかにしました(左図)。ゴーシェ病患者でも同様の現象が観察され、FDA承認薬※5でこの経路をブロックすることで神経症状が改善したことから、ドラッグリポジショニングによる迅速な臨床応用が期待されます。

 

本研究成果は、米国科学誌「Immunity」に、2月3日(金)午前1時(日本時間)に公開されました。

タイトル:“Direct activation of microglia by β-glucosylceramide causes phagocytosis of neurons that exacerbates Gaucher disease”

著者名:Takashi Shimizu, Charles R. Schutt, Yoshihiro Izumi, Noriyuki Tomiyasu, Zakaria Omahdi, Kuniyuki Kano, Hyota Takamatsu, Junken Aoki, Takeshi Bamba, Atsushi Kumanogoh, Masaki Takao, and Sho Yamasaki

DOI:https://doi.org/10.1016/j.immuni.2023.01.008

用語説明

※1グルコシルセラミド

セラミドと呼ばれる脂質にグルコースなどの糖が結合した構造をもつ糖脂質の1つ。

 

※2ミクログリア

中枢神経系における免疫細胞で、病原体の排除に加え脳内の不要物の除去や神経細胞の保護などを担う。

 

※3貪食

異物や病原体など、不必要なものを食べて消化する作用。

 

※4ドラッグリポジショニング

既存の薬剤の新しい効能を発見し、別の疾患の治療薬として用いる手法。既存薬ではヒトでの安全性が確認されているため、迅速な臨床応用が可能である。

 

※5 FDA承認薬

アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration)により、有効性・安全性が審査され承認を受けた医薬品。

 

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  • 図: 今回見出したゴーシェ病の新たな発症メカニズム 既存の概念(左)に加え、新たな経路が存在し(右)、新たな治療薬の標的となることが示された。