GPI糖脂質の生合成を制御する仕組みを解明(木下研がJ. Cell Biol.誌に発表)

大阪大学微生物病研究所糖鎖免疫学グループの木下タロウ特任教授、岐阜大学糖鎖生命コア研究所(iGCORE)の藤田盛久教授、江南大学生物工程学院のLiu Yi-Shi助理研究員らの研究グループは、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)と呼ばれる糖脂質の生合成を制御する新しい機構を明らかにしました。

 

研究成果のポイント

  • 小胞体関連分解の欠損により、GPI生合成が上昇することを発見。
  • GPI生合成上昇に必要な因子、CD55やARV1を同定。
  • 特定のGPI修飾されるべきタンパク質の前駆体が小胞体に蓄積することで、GPI生合成の初期反応を上昇させていることを解明。

 

ほとんどの真核細胞の表面にはGPIによって修飾されたタンパク質(GPIアンカー型タンパ質)が存在しています。ヒトでは、受容体や細胞接着因子、加水分解酵素、プリオンタンパク質など150種類以上のタンパク質がGPIの修飾を受けています。それぞれの細胞は必要に応じてGPIの量を調節していると考えられますが、これまでどのようにしてGPIの生合成が調節されているか不明でした。研究グループは、小胞体関連分解(ERAD)の欠損時にGPIの生合成が上昇することを見出し、その機構を調べました。ゲノムワイドなスクリーニングを行った結果、CD55とARV1がGPI生合成上昇に関与することを見出しました。CD55は幅広い組織や細胞で発現しているGPIアンカー型タンパク質であり、GPI転移異常とERADの欠損によって、GPI付加シグナルを有するCD55前駆体が小胞体内に蓄積し、GPI生合成を亢進させていることを明らかにしました。GPI付加シグナルペプチドはどれでも良いわけではなく、調べた31種のGPIアンカー型タンパク質前駆体のうち、CD55、CD48、PLET1のGPI付加シグナルペプチドのみがGPI生合成を促進していました。一方、小胞体に局在する膜タンパク質であるARV1はCD55前駆体によるGPI生合成の上昇に必要不可欠でした。ARV1はGPI合成の最初の反応を行う酵素と複合体を形成し、必要な時にGPI生合成を正に調節しているようでした。これらの結果は、細胞が特定のGPIアンカー型タンパク質前駆体の蓄積量を感知することで、GPIの生合成を調節しているユニークな仕組みを有していることを明らかにするものです。GPI生合成の調節機構をさらに詳しく調べることで、GPI生合成の部分欠損により生じる先天性GPI欠損症(IGD)をはじめとするGPI関連疾患の病態理解や診断法、治療法の開発に役立つことが期待されます。

 

本研究成果は、2023年2月24日にJournal of Cell Biology誌のオンライン版で発表されました。

タイトル:Accumulated precursors of specific GPI-anchored proteins upregulate GPI biosynthesis with ARV1

著者名:Yi-Shi Liu#, Yicheng Wang#, Xiaoman Zhou, Linpei Zhang, Ganglong Yang, Xiao-Dong Gao, Yoshiko Murakami, Morihisa Fujita* and Taroh Kinoshita*(#: 筆頭著者、*: 責任著者)

 

  • 図:GPIアンカー型タンパク質前駆体によるGPI生合成の調節機構