生体防御研究部門  糖鎖免疫学グループ

細胞膜上にはGPIと呼ばれる糖脂質によって膜にアンカーされる「GPIアンカー型タンパク質」という膜タンパク質が150種以上発現しており、様々な生理機能に重要な役割を果たしています。GPIアンカーが正しい構造で、かつ細胞に必要な量が生合成されないと、GPI欠損症と呼ばれる病気を発症します。糖鎖免疫学グループでは、GPIアンカー型タンパク質の生合成経路や機能を解析し、その不調によって起こるGPI欠損症の病態を解明し、診断、治療に繋げるべく研究を展開しています。

GPIアンカーの制御と機能

GPIアンカーは小胞体で生合成されてGPI付加シグナルを持ったタンパク質と結合しGPIアンカー型タンパク質を形成します。GPIアンカー型タンパク質はGPIアンカーの性質に基づき、細胞膜上の特定部位への輸送など様々な制御を受けます。研究室では、現在までにGPIアンカー型タンパク質の生合成や修飾に関わる多くの遺伝子を同定してきましたが、最近の研究ではGPIアンカーを切断する酵素を同定し、GPIアンカー型タンパク質がアンカー部位で切断されて膜から遊離し、離れた標的部位で機能し得ることを明らかにしました。このようにGPIアンカーにより、タンパク質が機能する場所、時間を状況に応じて多様に制御することが可能になります。現在、この制御機構について、さらなる研究を進めています。また、GPIアンカーは側鎖構造を持ち、興味深いことに細胞やタンパク質によって構造に違いが見られます。この側鎖の生理的意義についても関連する遺伝子に着目し解析を行っています。

GPI欠損症の発症機序

研究室では、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)という血液の疾患が、GPIアンカー合成酵素PIGAの後天的変異が原因で起こることを見出しました。近年、PIGAではなくPIGTの2つある対立遺伝子のうち1つの遺伝性変異に、もう一方の体細胞突然変異が重なり発症する非典型PNHの4例を報告し、これらは従来のPNHで見られる溶血発作の他に自己炎症症状を来すことが特徴です。さらなる症例の集積を進めています。さらに、GPIアンカーの合成遺伝子の遺伝的異常による先天性GPI欠損症の存在を2006年に世界で初めて報告しました。その後の解析により、30のGPI関連遺伝子のうち24の遺伝子で変異が全世界から報告されています。これらの病態の発生機序解析には研究室で開発されたGPIアンカー合成・修飾活性を測定する実験系が貢献しています。研究室では、GPI欠損症の発症機序や診断基準の制定、治療法の解明を目指して研究を進めています。

  • GPIアンカー型タンパク質は、小胞体で生合成されたGPIアンカーが前駆体タンパク質に付加されてでき、ゴルジ体を経由して細胞膜表面に輸送される。研究室ではGPIアンカーの生合成と修飾経路の完全解明を目指し、これまで25種以上の遺伝子を同定した。

メンバー

  • 教授: 山﨑 晶(兼)
  • 特任教授: 木下 タロウ(兼)
  • 特任教授: 村上 良子

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最近の代表的な論文

  • (1) AAV-based gene therapy ameliorated CNS-specific GPI defect in mouse models. Murakami Y et al.Mol Ther Methods Clin Dev. (2023) 32(1):101176.
    (2) Accumulated precursors of specific GPI-anchored proteins upregulate GPI biosynthesis with ARV1. Liu YS et al. J Cell Biol. (2023) 222(5):e202208159.
    (3) Genome-wide CRISPR screen reveals CLPTM1L as a lipid scramblase required for efficient glycosylphosphatidylinositol biosynthesis. Wang Y. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, (2022) 119(14): e2115083119.
    (4) Ethanolamine-phosphate on the second mannose is a preferential bridge for some GPI-anchored proteins. Ishida M., et al., EMBO Rep. (2022) e54352.
    (5) Establishment of a mouse model of inherited PIGO deficiency and therapeutic potential of AAV-based gene therapy with genome editing. Kuwayama R., et al., Nat. Commun. (2022) 13:3107.
    (6) Sequential hydrolysis of FAD by ecto-5’ nucleotidase CD73 and alkaline phosphatase is required for uptake of vitamin B2 into cells. Shichinohe N., J. Biol. Chem. (2022) 298:102640.
    (7) Paroxysmal nocturnal hemoglobinuria caused by CN-LOH of constitutional PIGB mutation and 70-kbp microdeletion on 15q Langemeijer S. et al. Blood Adv. (2020) 4(22):5755-5761.
    (8) Cross-talks of glycosylphosphatidylinositol biosynthesis with glycosphingolipid biosynthesis and ER-associated degradation. Wang Y et al. Nat. Commun. (2020) Feb 13;11(1):860.
    (9) Complement and inflammasome overactivation mediates paroxysmal nocturnal hemoglobinuria with auto inflammation Hochsmann B. et al. J Clin Invest. (2019) 129 (12):5123-5136.
    (10) Mutations in PIGB cause an inherited GPI biosynthesis defect with an axonal neuropathy and metabolic abnormality in the severe cases Murakami Y. et al. (2019) Am. J. Hum. Genet., 105:384-394.
    (11) Identification of a Golgi GPI-N-acetylgalactosamine transferase with tandem transmembrane regions in the catalytic domain. Hirata, T ., et al. Nat. Commun. (2018) 9: 405