マラリア原虫の新規薬剤耐性遺伝子スクリーニング手法を開発(岩永研がNat. Commun.誌に発表)

分子原虫学分野の岩永史朗教授らの研究グループはマラリア原虫人工染色体を使い、マラリア原虫からゲノムワイドに薬剤耐性遺伝子を同定できる手法を開発し、さらにこれを用いて現地患者から新規耐性遺伝子を同定することに成功しました。

 

【研究成果のポイント】

  • 人工染色体技術と高効率遺伝子導入法を使い、マラリア原虫内に直接、遺伝子ライブラリーを作製することに成功した。
  • 薬剤耐性原虫から遺伝子ライブラリーを感受性原虫に構築し、薬剤スクリーニングを行うことにより耐性遺伝子を同定することに成功した。
  • マラリア流行地域の患者より採取したメフロキン耐性原虫より新規薬剤耐性遺伝子(pfmdr7)を同定した。

 

マラリアは年間約2.2億人の感染者と約65万人の死者を出す世界3大感染症の一つです。現在、地球規模で薬剤耐性マラリア原虫が蔓延しており、その対策が急務の課題となっています。薬剤耐性遺伝子は耐性機構の分子メカニズムを理解するのに有効なだけでなく、耐性拡散監視の分子マーカーとして利用可能であることから同定に多くの労力が費やされています。今回、分子原虫学分野のグループは独自に開発したマラリア原虫人工染色体と原虫への高効率遺伝子法を組み合わせ、薬剤耐性原虫由来のゲノムDNAから感受性原虫内に直接遺伝子ライブラリーを構築し、これを薬剤スクリーニングすることで耐性遺伝子を同定することに成功しました。さらにタイ−ミャンマー国境地域に設置したフィールドサイトより採取した患者由来メフロキン耐性原虫に同手法を適用し、新規メフロキン耐性遺伝子としてpfmdr7を同定しました。興味深いことに耐性原虫由来のpfmdr7遺伝子はタンパク質コード領域には変異はなく転写制御領域に変異を持ち、原虫はこの変異によってpfmdr7の発現量を増加させ、耐性を獲得することが明らかとなりました。また、同様の転写量の増加は他の患者由来メフロキン耐性原虫においても確認され、原虫の耐性獲得戦略の一つであることが示唆されました。

 

本研究成果は2022年10月18日にNature communicationsに掲載されました。

タイトル:Genome-wide functional screening of drug-resistance genes in Plasmodium falciparum.

著者:Shiroh Iwanaga, Rie Kubota, Tsubasa Nishi, Sumalee Kamchonwongpaisan, Somdet Srichairatanakool, Naoaki Shinzawa, Din Syafruddin, Masao Yuda, and Chairat Uthaipibull

DOI:10.1038/s41467-022-33804-w

  • 図:人工染色体を用いた薬剤耐性遺伝子同定法の原理。薬剤耐性原虫(黄色)より>10kbpのDNA断片を調製し、pFCENv1に組み込む。次にこれを高効率遺伝子導入法により薬剤感受性原虫(青色)内に直接、導入して遺伝子ライブラリー化する。耐性原虫由来の耐性遺伝子をコードするDNA断片が組み込まれたpFCENv1が導入された場合、原虫は新たに耐性を獲得する(黄色)。一方、ハウスキーピング遺伝子等が導入された場合は薬剤感受性のままである(青色)。よって、遺伝子ライブラリーを薬剤処理すると新たに耐性を獲得した原虫のみが選択的に生存・増殖する。最終的に選択した原虫よりpFCENv1を回収し、インサートDNAの配列解析を行うことで耐性遺伝子が同定できる。