GPIアンカーと前駆タンパク質の新規結合様式の発見-PIGG欠損症の病態の解明(木下研がEMBO Rep.に発表)

本研究所 村上良子特任教授、木下タロウ特任教授らの研究グループはGPIアンカーと前駆タンパク質の新規結合様式を発見しました。

研究成果のポイント

GPI アンカー型タンパク質(GPI-AP)は前駆タンパク質とGPIアンカー部分が小胞体で別々に合成され、5つの因子からなるGPIトランスアミダーゼ複合体(GPIT) が前駆タンパク質のC末端のGPI付加シグナルを認識して切断し、GPIを付加します。

GPIアンカーの構造は1980年代にラットThy-1とトリパノソーマのvariant surface glycoproteinで決定されました。GPIのコア構造はEthN-P-6-Man-α1,2-Man-α1,6-Man-α1,4-GlcN-α1,6-myoInositol-phospholipidで、この3つ目のマンノース(Man3)に結合するエタノールアミンリン酸 (EthN-P) のアミド基を介して前駆タンパク質に付加されます。この構造は全ての真核生物で保存されていると考えられてきました。今回村上特任教授らはこのドグマを覆す発見をしました。

概要

Man3にEthN-Pを付加するPIGOやMan3を付加するPIGBのノックアウト(KO)細胞では予想に反してGPI-APであるCD59の発現が10%程度残ります。これらにさらにMan2にEthN-P を付加するPIGGをKOしてダブルKOを作製するとCD59は完全に欠損しました。PIGBKOで発現するCD59のGPIの構造を解析するとMan2のEthN-Pを介してCD59が結合していました。さらに野生型の細胞に発現するCD59の約10%でこの新規構造が見つかりました。神経組織に発現する50種のGPI-APの中からPIGG欠損細胞で発現が低下していたCD73とNetrinG2のGPIの構造を解析したところ、すべての分子でMan2のEthN-Pを介した新規構造が確認できました。つまり一部のGPI-APはMan3ではなくMan2に結合するEthN-P を介してGPIアンカーが付加されることが明らかになりました。Man2のEthN-PはPIGGによって付加されますが、この修飾は一過性のものでMan3のEthN-Pを介して前駆タンパク質にGPIが付加されたのちに速やかにPGAP5によって除かれるので、PIGGの欠損細胞では多くのGPI-APは正常な構造で正常レベル発現し、PIGG機能の生理的な意義が不明でした。ところが最近PIGG欠損症が先天性GPI欠損症(IGD)として重篤な神経症状をきたすことが明らかになり、PIGGが神経発達に重要な役割をしていることがわかってきました。上記の結果から神経細胞に発現するタンパク質のなかにはCD73やNetrinG2のように主としてこの新規構造で発現するタンパク質があり、PIGG欠損によりこれらのタンパク質の発現が低下し、神経症状をきたすと考えられます。実際にPIGG欠損症例では繊維芽細胞のCD73の発現が低下しています。

 

本研究成果はEMBO Reportsに2022年5月に掲載されました。

タイトル: Ethanolamine-phosphate on the second mannose is a preferential bridge for some GPI-anchored proteins.

著者: Mizuki Ishida, Yuta Maki, Akinori Ninomiya, Yoko Takada, Philippe Campeau, Taroh Kinoshita, Yoshiko Murakami*

EMBO Rep. 2022 May 23:e54352. doi: 10.15252/embr.202154352.