新規の脂質スクランブラーゼを発見(木下研がPNAS誌に発表)

本研究所木下タロウ教授、王宜成特任研究員らの研究グループは、小胞体に存在する新規の脂質スクランブラーゼであるCLPTM1Lを発見しました。

<研究の背景>

GPI(グリコシルホスファチジルイノシトールの略)と呼ばれる糖脂質はヒトの150種以上のタンパク質の細胞膜アンカーとして働きます。GPIの生合成は細胞内の小胞体膜上で行われ一連の反応には20以上の遺伝子産物が関わっており、木下教授の研究グループによってその大半が明らかにされています。GPI生合成の初期反応は膜の細胞質側で行われ、途中の中間体が内腔側へフリップし、その後の反応はタンパク質への付加まで内腔側で進行することが知られていました(図A)。しかし、これまで中間体であるグルコサミンーホスファチジルイノシトール(GlcN-PI)をフリップさせるメカニズムが不明でした。

<研究の概要>

木下教授らはドイツのマックスプランク研究所の研究グループとの共同研究によって化学合成したGlcN-PIやGlcNAc-PI(Nアセチルグルコサミンーホスファチジルイノシトールの略。GlcNAc-PIはGlcN-PIの1段階前の中間体)を細胞に与えると小胞体に取り込まれGPIの生合成に利用されることを見出していました(Guerrero Muñoz, P. A., Y. Murakami, A. Malik, P. H. Seeberger, T. Kinoshita and D. Varón Silva. 2021. Rescue of glycosylphosphatidylinositol-anchored protein biosynthesis using synthetic glycosylphosphatidylinositol oligosaccharides. ACS Chem. Biol., 16:2297-2306.)。今回、王研究員らはGlcNAc-PIを生合成できないGPI欠損細胞に化学合成したGlcNAc-PIを与えると細胞表面にGPIアンカー型タンパク質の発現が回復することを指標にして(図B)、GlcN-PIのフリップに関わる遺伝子を見つける方法を確立し、機能が未知であったCLPTM1L遺伝子にたどり着きました。CLPTM1Lタンパク質は小胞体に存在する8回膜貫通型のタンパク質で、リポソームを用いた実験からCLPTM1LがGlcN-PIだけでなくホスファチジルイノシトールやホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンをも膜の反対側へ移行させる活性を持つ脂質スクランブラーゼであることがわかりました。CLPTM1L遺伝子をノックアウトすると細胞のGPI生合成能力が大きく低下し、しかし生合成能が一部残存したことから、CLPTM1LはGlcN-PIの内腔側へのフリップを担う主要なスクランブラーゼであり、細胞はさらにバックアップのスクランブラーゼを持っていることが示唆されました。

 

本研究成果は2022年3月28日に米国科学アカデミーの学術雑誌であるProceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)のオンライン版に掲載されました。

タイトル: Genome-wide CRISPR screen reveals CLPTM1L as a lipid scramblase required for efficient glycosylphosphatidylinositol biosynthesis.

著者: Wang, Y., A. K. Menon, Y. Maki, Y.-S. Liu, Y. Iwasaki, M. Fujita, P. A. Guerrero, D. Varón Silva, P. H. Seeberger, Y. Murakami and T. Kinoshita.