造血幹細胞休眠状態誘導の分子機構を解明(高倉研がNat Commun誌に発表)

本研究所情報伝達分野 賈維臻特任研究員、高倉伸幸教授らの研究グループは、Galectin-3 (Gal-3) による造血幹細胞休眠状態の誘導とその分子機構を明らかにした。

造血幹細胞は血液細胞を供給し続けているが、細胞分裂が過剰に繰り返されると幹細胞は枯渇してしまう。そのため、造血幹細胞の自己複製と分化は厳密なバランスが維持されている。しかしながら、どのような分子機構により造血幹細胞の休眠状態が誘導されているのか、その詳細は不明であった。

当研究グループは造血幹細胞の維持に関与する因子の探索を行い、特異的に発現上昇している遺伝子としてGal-3を同定した。Gal-3はgalactose binding lectin ファミリーの一つであり、発生、分化、細胞周期、アポトーシスといった生命現象に関わることが示唆されている。Gal-3遺伝子欠損マウスを用いて造血幹細胞の機能を解析したところ、Gal-3欠損マウスではG0/G1期の造血幹細胞が顕著に減少しており、骨髄再構築能の低下が認められた。Gal-3の発現について解析すると、骨髄ニッチ細胞から分泌されるAngiopoietin-1あるいはThrombopoietinが造血幹細胞表面のTie2あるいはMplを活性化して、下流のPI3K/AKTシグナルを経由してNF-kBの核内移行を促進することでGal-3の転写が誘導されることが判明した。このように産生されたGal-3は、転写因子Sp1と結合して、p21の転写を促進する。細胞内のp21の発現亢進により造血幹細胞の休眠状態が維持される(図)。 このように、Gal-3が造血幹細胞の休眠状態の維持機構に関わることが明らかになった。

本研究成果を通して、骨髄ニッチ因子による造血幹細胞の休眠状態制御が可能になれば、有効な幹細胞の培養、移植、幹細胞を守る抗がん剤治療,さらにはがん幹細胞への適用などへの応用に寄与できると推測される。

  • 図:Gal-3により造血幹細胞の休眠状態を維持する分子機構
    Angiopoietin-1 (Ang-1) あるいは Thrombopoietin (Thpo) の結合により造血幹細胞表面のTie2あるいはMplが活性化すると、下流のPI3K/AKTシグナルを経由してNFkBが細胞核に移動する。核内のNFkB はGal-3のプロモーター領域と結合し、Gal-3の転写を誘導する (左)。このようにして産生されたGal-3は転写因子Sp1と結合して、p21の転写を促進する。このことで、造血幹細胞の細胞周期にブレーキがかかり、造血幹細胞の休眠状態が維持される (右)。