ピロリ菌が胃炎を引き起こすメカニズムを解明 (山崎研がJEMに発表)

大阪大学微生物病研究所山崎晶教授(免疫学フロンティア研究センター兼務)らの研究グループは、ヘリコバクター・ピロリ(いわゆるピロリ菌)※1が胃炎を引き起こすメカニズムを明らかにしました。

ピロリ菌は、世界人口の約50%に感染している病原体です。ピロリ菌が感染すると、胃炎、胃がんの発症リスクが高まることから、抗生物質による除菌が推奨されています。ところが、近年、除菌による耐性菌の出現や、細菌叢バランスの破綻が問題となっており、併用や代替可能な新たな治療法が望まれていました。さらに、ピロリ菌が胃炎を発症する機構も不明でした。

本研究グループは、ピロリ菌が宿主のコレステロールを取り込み、菌内で糖と脂質を付加することで α-コレステリルグルコシド(α-cholesterylglucoside, αCAG:図)や、構造が類似するα-コレステリルホスファチジルグルコシド(α-cholesteryl phosphatidylglucosides, αCPG)といった炎症誘導化合物に変換することで胃炎を引き起こす、という一連の分子メカニズムを初めて明らかにしました。

 

宿主側でこれらの受容体の働きをブロックすることや、ピロリ菌でこの糖脂質の生成に必要な酵素(コレステリルグルコシルトランスフェラーゼ)を阻害することが、抗生物質と併用可能な、或いは抗生物質に取って代わる、新たな胃炎・胃がん発症を抑える治療標的として期待されます。

 

 
 

本研究成果は、2020年9月29日に米国科学誌「Journal of Experimental Medicine」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Helicobacter pylori metabolites exacerbate gastritis through C-type lectin receptors

著者名:M Nagata, K Toyonaga, E Ishikawa, S Haji, N Okahashi, M Takahashi, Y Izumi, A Imamura, K Takato, H Ishida, S Nagai, P Illarionov, B Stocker, M Timmer, D Smith, S Williams, T Bamba, T Miyamoto, M Arita, B Appelmelk and S Yamasaki

 

なお、本研究は、科学研究費補助金、日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)『画期的医薬品等の創出をめざす脂質の生理活性と機能の解明』研究開発領域(研究開発総括:横山信治)における研究開発課題「病原体糖脂質を介する新たな宿主免疫賦活機構の解明と感染症治療への応用(研究開発代表者:山崎晶)」の支援を受け、九州大学、理化学研究所、岐阜大学、慶應大学、オランダ、オーストラリア、ニュージーランド、イギリスの共同研究チームによって実施されました。

 

 

※1 ヘリコバクター・ピロリ Helicobacter pylori

一般にピロリ菌と呼ばれる。胃の酸性環境下で生息することができる。世界人口の約50%の胃に生息しており、胃炎や胃がんの原因の一つとされ、抗生物質による除菌治療が推奨されている。オーストラリアのJohn Robin WarrenとBarry James Marshallによって1983 年に発見され、両氏は 2005 年にノーベル医学・生理学賞を受賞している。