国際宇宙ステーション「きぼう」でのマウス飼育 により宇宙滞在が精子受精能力に及ぼす影響を解析(伊川研がSci. Rep.に発表)

本研究所遺伝子機能解析分野の大学院生・松村貴史さん(当時:大阪大学薬学研究科博士課程/現在:横浜市立大学 日本学術振興会特別研究員)、野田大地 助教、伊川正人 教授らの研究グループは、筑波大学の高橋智教授ら、宇宙航空研究開発機構(JAXA)との共同研究により、宇宙に滞在したマウスの精子が正常な受精能力を持っており、次世代マウスの成育・繁殖能力においても親世代の宇宙滞在の影響は見られないことを世界で初めて明らかにしました。

 

宇宙滞在は重力・放射線量・精神的なストレスなど人体に様々な影響を及ぼします。これまで、適切な飼育装置がないなどの技術的な問題から、哺乳類実験動物を宇宙空間で飼育し、地球へ生還させることは非常に困難でした。そのため、宇宙滞在が哺乳類の生殖器官(*1)や受精能力に与える影響はよく分かっていませんでした。本研究グループは、人工重力環境(1G)と微小重力環境(0G)を比較できる遠心機能付き小動物飼育装置を開発し、国際宇宙ステーション・「きぼう」でオスマウスの長期飼育(35日間)と全頭生還に世界で初めて成功しました(左図)。

 

伊川教授らの共同研究グループは、①生還した宇宙マウスの精子産生能力や精子受精能力が正常であり、②親世代の宇宙滞在が次世代の成育や繁殖に影響しないことを発見しました(図1)。技術進歩や民間宇宙開発による低コスト化で、誰もが宇宙旅行に行ける時代が現実味を帯びています。本研究成果は、将来、人類が宇宙へ活動領域を広げるにあたっての基礎的知見となります。

図1(A)宇宙に滞在したマウス(宇宙マウス)の精子 (B)体外受精で得られた次世代マウス

 

本研究成果は、2019年9月24日(火)に英国の科学誌ネイチャー(Nature)の姉妹紙のオンラインジャーナル「サイエンティフィック リポーツ(Scientific Reports)」に掲載されました。

タイトル:“Male mice, caged in the International Space Station for 35 days, sire healthy offspring”

著者名:Matsumura T#, Noda T#, Muratani M, Okada R, Yamane M, Isotani A, Kudo T, Takahashi S and Ikawa M(#は共筆頭著者を示します。)

 

※1 生殖器官

精巣で精子が作られた後に、精巣の隣にある精巣上体と呼ばれる器官を通過することで、精子は卵と受精する能力を獲得します。さらに、精子は副生殖腺と呼ばれる組織から分泌される液と混合され、雌性生殖道内へと射出されます。このように、オス生殖器官(精巣・精巣上体・副生殖腺)は、体内で精子が卵子と受精するために重要な役割を果たします。

  • 本研究の概要

  • 国際宇宙ステーション「きぼう」でのマウス飼育 により宇宙滞在が精子受精能力に及ぼす影響を解析(伊川研がSci. Rep.に発表)