病原性大腸菌が腸管に付着する仕組みを解明(中村研がPNASに発表)

腸管毒素原性大腸菌は、旅行者や発展途上国で生活する人々の下痢症の主な原因菌として知られており、世界保健機関(WHO)の統計によれば年間約30~50万人の死者を出す深刻な問題となっています。現在までに、腸管毒素原性大腸菌に対して有効なワクチンは開発されておらず、対症療法や抗生物質などに頼った治療が施されていますが、薬剤耐性菌の出現が社会問題となるなど、新たな治療法の開発が求められています。

 

腸管毒素原性大腸菌は、ヒトに感染するための最も重要なステップとして腸管に付着する必要があり、これまでの研究から、IV型線毛という細菌表面に存在する糸状の構造物が重要であると考えられてきましたが、その詳しい付着の仕組みについては解明されていませんでした。これに対し私たちは、腸管毒素原性大腸菌のヒト腸管への付着機構を解明し、その付着を阻害することで、抗生物質に頼らない新規の治療法の開発を目指して取り組んでいます。

 

本研究では、腸管毒素原性大腸菌の付着にはIV型線毛だけでは不十分であり、大腸菌が腸管に放出する分泌タンパク質も必要であることを発見しました。また、X線結晶構造解析法という手法で線毛の先端部にのみ存在するタンパク質と、大腸菌が腸管に放出する分泌タンパク質がどのように結合しているのかを原子レベルで解明し、菌体表面のIV型線毛とヒト腸管上皮の間を分泌タンパク質が“橋掛け”する、腸管毒素原性大腸菌の付着機構を世界で初めて明らかにしました。さらに、分泌タンパク質に対する抗体を投与すると、大腸菌が細胞に付着しなくなることを明らかにしました。

 

本研究成果により、腸管毒素原性大腸菌がヒトの腸管に付着する仕組みが世界で初めて明らかとなりました。さらに、この付着モデルは、コレラ菌などの他の病原性細菌にも共通していることが分かりました。これらの成果は、腸管毒素原性大腸菌の新規ワクチン開発につながるだけでなく、付着に関与するタンパク質の結合を阻害する抗付着剤の開発につながる可能性があります。抗付着剤は、病原菌を死滅させず体外に洗い流すことができるため、耐性菌を出現させる恐れがありません。そのため、抗生物質とは異なる新規の治療法となる可能性があります。

 

本研究成果は、2018年6月25日(月)に米国科学アカデミー紀要「PNAS」(オンライン)に掲載されました。

 Interplay of a secreted protein with type IVb pilus for efficient enterotoxigenic Escherichia coli colonization

Hiroya Oki*, Kazuki Kawahara*, Takahiro Maruno, Tomoya Imai, Yuki Muroga, Shunsuke Fukakusa, Takaki Iwashita, Yuji Kobayashi, Shigeaki Matsuda, Toshio Kodama, Tetsuya Iida, Takuya Yoshida, Tadayasu Ohkubo, and Shota Nakamura(*:筆頭共著者)