MDSCにおける細胞老化制御因子によるがんの促進効果を明らかに(原研がNat. Commun.誌に発表)

細胞老化は正常細胞がDNAダメージなどを受けた際に引き起こす現象であり、細胞周期を不可逆的に停止させることで細胞ががん化することを防ぐ。Cyclin-dependent kinase inhibitor (CDKI)であるp16Ink4aおよびp21Cip1/Waf1は細胞老化に伴う細胞周期の停止を担っている。事実、p16Ink4aやp21Cip1/Waf1の遺伝子欠損マウスは早期に発がんすること、前がん病変でp16Ink4aやp21Cip1/Waf1の発現が観察されることが我々を含め複数のグループから報告されている。しかしながら細胞老化を伴わないp16Ink4aおよびp21Cip1/Waf1の発現とその機能についてはあまり研究が進んでいない。

今回我々は、がん組織においてp16Ink4aおよびp21Cip1/Waf1の発現ががん細胞以外の細胞で観察されることを見出し、その細胞がmyeloid-derived suppressor cell (MDSC、※1)であること、p16Ink4aおよびp21Cip1/Waf1はCDKによる転写因子SMAD3の抑制を解除することでケモカインレセプターCX3CR1の発現を促し、monocytic (Mo-) MDSCのがん組織への浸潤を助けることを示した(図1)。MDSCは発がんなどにより誘導される免疫抑制細胞であり、がん細胞に対する免疫応答を抑制することでがんの進展を加速させる。p16Ink4a/p21Cip1/Waf1二重欠損マウスやCDK 阻害剤を用いて、MDSCにおけるp16Ink4a/p21Cip1/Waf1のシグナルはがんの進展を促進することを明らかにした(図2)。

本研究では、がん抑制因子と考えられてきたp16Ink4aおよびp21Cip1/Waf1は上記の機構を介して 生体内でのがんの進展を亢進することを示した点、CX3CR1の阻害によるMo-MDSCの遊走能の抑制が治療効果を示唆した点で、がん治療に新しい視点をもたらした。

 

※1 myeloid-derived suppressor cell

顆粒球、樹状細胞、マクロファージなどの前駆細胞 。腫瘍由来のサイトカインなどの因子により過剰に誘導され、免疫応答を抑制することが知られている。がん患者の免疫抑制状態に重要な役割を果たしており、がんの免疫療法開発のターゲットとして注目されている。

 

左図:上)

Mo-MDSCにおけるp16Ink4aおよびp21Cip1/Waf1によるCX3CR1の発現誘導経路。p16Ink4aおよびp21Cip1/Waf1はCDKIとしてCDK2/4の活性を阻害する。CDK2/4はCx3cr1の発現を誘導する転写因子Smad3の抑制を担っているため、p16Ink4a/p21Cip1/Waf1Cx3cr1の発現に正に働く。

 

左図:下)

Mo-MDSCはp16Ink4aおよびp21Cip1/Waf1を発現しており、CX3CL1を発現している腫瘍部へ浸潤する。p16Ink4a/p21Cip1/Waf1二重欠損マウスでは、Mo-MDSCにおけるCX3CR1の発現が低下しており、腫瘍内Mo-MDSCの数も減少する。この結果、抗腫瘍免疫が亢進し、がんの進展が遅くなる。

 

本研究成果は2017年12月12日にNature Communications誌に掲載されました。

p16Ink4a and p21Cip1/Waf1 promote tumour growth by enhancing myeloid-derived suppressor cells chemotaxis