フラビウイルス科に共通したウイルス粒子産生機構の解明(松浦研がPLoS Pathogensに発表)

C型肝炎ウイルス (HCV) の肝臓指向性を規定する重要な宿主因子として、マイクロRNA122やアポリポ蛋白質が知られており、我々はアポリポ蛋白質の両親媒性アルファーヘリックスが感染性粒子の産生に重要な役割を演じていることを明らかにしてきました。一方、HCVと同じフラビウイルス科に属する、フラビウイルスのNS1蛋白質やペスチウイルスのErns蛋白質は、アポリポ蛋白質と同様に両親媒性アルファーヘリックス構造を保持した分泌性糖蛋白質です。今回、宿主由来のアポリポ蛋白質とNS1やErnsなどのウイルス蛋白質の感染性粒子産生における役割を解析し、フラビウイルスの進化過程を考察しました。

アポリポ蛋白質B (ApoB)とApoEを同時に欠損させたヒト肝癌由来Huh7細胞を用いて、HCVの粒子産生におけるウイルス由来のNS1とErnsの役割を検討しました。さらに、Ernsを欠損させた豚コレラウイルス (CSFV) を作製し、ペスチウイルスの粒子産生におけるErnsの機能を、アポリポ蛋白質が代償しうるかも検討しました。

Huh7細胞からアポリポ蛋白質を欠損させると、HCVの粒子産生は有意に低下しましたが、フラビウイルスのNS1やペスチウイルスのErnsの発現で粒子産生が回復したことから、HCVの粒子産生において、NS1やErnsはアポリポ蛋白質と同様の機能を有することが示唆されました。また、Ernsを欠損させたCSFVはブタ腎由来SK6細胞で複製するものの、感染性粒子は産生されません。その細胞にアポリポ蛋白質を発現させると粒子産生が回復したことから、ペスチウイルスの粒子産生におけるErnsの機能を、アポリポ蛋白質が代償しうることが示唆されました。最後に、ウイルス粒子にこれらの分泌蛋白質が直接結合していることも、免疫沈降法により明らかにしました。

今回の検討で、HCVやペスチウイルスなどのフラビウイルスの粒子産生において、宿主のアポリポ蛋白質や、ウイルス由来のErnsやNS1が同様の機能を有することが明らかになりました。HCVは他のフラビウイルスと異なり、ErnsやNS1に対応する分泌性のウイルス蛋白質をゲノムにコードしていません。HCVが各種アポリポ蛋白質を高発現している肝臓に馴化する過程で、分泌性のウイルス蛋白質が不要となり、自ら欠失した可能性が考えられます。

 

本研究成果はPLoS Pathogens誌に6月23日に掲載されました。

Host-derived apolipoproteins play comparable roles with viral secretory proteins Erns and NS1 in the infectious particle formation of Flaviviridae

PLoS Pathogenshttps://doi.org/10.1371/journal.ppat.1006475