PLoS Pathog. 11(3):e1004694 2015/03/04

腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)は、主に魚介類から経口的に感染し、胃腸炎や下痢をひき起こすことが知られています。私たちのグループはこれまでに、本菌の持つIII型分泌装置のひとつ(T3SS2)がその下痢誘導活性に必須であることを明らかにしてきました。T3SSとは菌体内で作られた多種多様な活性をもつ蛋白質(エフェクター)を、宿主細胞に直接注入できる装置です。つまり、T3SS2エフェクターのそれぞれの活性が協調的に働き、最終的にヒトの下痢症を誘導することが想像できます。これまで私たちはT3SS2依存的な活性のひとつとして、「ストレスファイバー」の形成誘導に注目してきました。ストレスファイバーとは、アクチンやいくつかの蛋白質で構成される細胞骨格の一種ですが、異常な形成誘導は様々な疾病につながることが知られています。本研究では、腸炎ビブリオによるストレスファイバー形成誘導に必須のT3SS2エフェクター(VopO)を同定しました。まず、腸炎ビブリオがストレスファイバーを誘導するために、低分子GTP結合蛋白質のRhoAとその下流のRho結合キナーゼ(ROCK)をT3SS2依存的に活性化していることが分かりました。さらに、VopOがRhoAの活性化に関わるGDP-GTP交換因子(GEF-H1)に直接結合し、それによりRhoA-ROCK経路を活性化していることを明らかにしました。VopOのこの活性は、腸管上皮細胞の細胞間バリアー破壊に関与しており、T3SS2依存的な下痢誘導活性に寄与している可能性が示唆されました。VopOの発見により、「腸炎ビブリオが感染するとなぜ下痢が起きるのか?」という問題の解決に、さらに近づいたと考えています。