Dev Cell. 33(3):247-59 2015/05/04

全身に張り巡らされた動脈、静脈、毛細血管から構成される血管系は、各組織に酸素や栄養分を送り届ける役割を担っており、生体機能の維持に重要な役割を果たしています。恒温動物では動脈と静脈のネットワークパターンが綺麗な並走性を示すことは古くから知られておりましたが、どのような分子機構によって並走性が決定しているのか、生理的にどのような意義があるのかは不明でした。
本研究では動脈血管から産生されたアペリンが、静脈血管内皮細胞に発現するAPJ受容体に作用することが、動脈と静脈のパターン形成に重要であることを明らかにしました。形成された直後の動脈と静脈は離れた場所に位置していますが、アペリンが静脈血管に作用すると、血管内皮細胞が活性化されて動脈側への運動能が高まります。加えて、静脈血管内皮細胞からsfrp1の分泌が誘導され、それが静脈周囲の好中球からのマトリックスメタロプロテアーゼの産生を引き起こします。その結果として、静脈を固定している細胞外基質であるIV型コラーゲンの分解が促進され、静脈血管はスライドするように動脈血管の方向へと移動していると考えられます。
動脈と静脈の間には「反発力」が存在する事が知られておりましたが、アペリンはAPJ受容体に作用することによって「誘引力」を生み出します。このように相反する力が巧妙なバランスを生み出すことによって、動脈と静脈の並走したパターンが作られることを明らかにしました。さらに、アペリンやAPJの遺伝子を欠失させることにより、動脈と静脈が離れた走行性を示すマウスを作成して生理機能への影響を解析しました。実験の結果、このようなマウスでは、動脈と静脈の間で熱交換を行うことができず、周囲の温度変化への対応力が低下していることが判明しました。