Science. 350(6259):442-445 2015/10/23

カルシニューリンは様々な組織で発現しているカルシウム依存性の脱リン酸化酵素です。その阻害剤であるシクロスポリンA(CsA)とFK506は臓器移植後の拒絶を抑える免疫抑制剤として広く用いられています。一方、ラットやマウスを用いた生殖毒性試験では、雄の生殖能力が低下することが報告されていますが、その作用機序は明らかになっていません。我々は、精子に特異的に存在するカルシニューリンとして、PPP3CCとPPP3R2を同定し、精子カルシニューリンと名づけました。精子カルシニューリンを欠損した遺伝子改変マウスを作製すると、精子の尻尾の一部(中片部)だけが屈曲しなくなり、雄マウスが不妊となることを明らかにしました。CsAやFK506を野生型の雄マウスに投与してみると、投与開始から数日後には精子中片部が屈曲しなくなり、2週間後にはマウスは不妊となりました。精巣で作られた精子は約10日間かけて精巣上体を移行し、この間に精子は運動可能となります。カルシニューリン阻害剤が10日間以内で効いたことから、精子カルシニューリンは精巣での精子形成過程ではなく、精巣上体移行中に中片部を屈曲可能にしていることが分かりました。投与を中止すると1週間で雄マウスの生殖能力が回復したことから、精子カルシニューリンを特異的に阻害できれば、短期間で効果があり可逆的な男性避妊薬の開発に繋がると期待されます。