精子の形成に必要なタンパク質複合体を発見(伊川研がPNASに発表)
遺伝子機能解析分野の金田侑樹さん(大学院博士後期課程)、宮田治彦准教授、伊川正人教授、大阪大学ヒューマン・メタバース疾患研究拠点 (WPI-PRIMe) のLu Yonggang特任准教授らの研究グループは、タンパク質複合体が精子の形成を制御する機構を世界で初めて明らかにしました。
【研究成果のポイント】
- 精子の形成に重要なタンパク質複合体TEX38/ZDHHC19を発見
- TEX38/ZDHHC19が脂質修飾を介して細胞質を除去しないと精子の頭部が折れ曲がる
- 男性不妊の診断や脂質修飾に着目した男性避妊薬の開発に繋がると期待
精子形成中に精子細胞内の細胞質※1は取り除かれ、完成した精子に細胞質はほとんど残っていません。細胞質の除去は精子形成に重要ですが、その制御機構はほとんど分かっていませんでした。今回研究グループは、TEX38とZDHHC19が複合体を形成することで安定化し、ZDHHC19が脂質修飾※2により細胞質の除去を制御することを明らかにしました。細胞質が正しく除去されない精子は折れ曲がってしまい(図1)、卵子と受精できないことも分かりました。本研究成果は男性不妊の原因究明や、脂質修飾に着目した男性避妊薬の開発に繋がると期待されます。
本研究成果は、米国科学誌 「米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America、PNAS)」 に3月4日(火)午前5時(日本時間)以降に公開されました。
タイトル:“TEX38 localizes ZDHHC19 to the plasma membrane and regulates sperm head morphogenesis in mice”
著者名:Yuki Kaneda, Yonggang Lu, Jiang Sun, Keisuke Shimada, Chihiro Emori, Taichi Noda, Takayuki Koyano, Makoto Matsuyama, Haruhiko Miyata, Masahito Ikawa
用語説明
※1 細胞質
細胞の中で遺伝情報を含む核以外の部分 (下図)。
※2 脂質修飾
タンパク質に脂肪酸が付加される生化学的な修飾の一つ。脂質修飾を受けることで、タンパク質構造の安定化やタンパク質間相互作用の変化などが起こる。代表的なものとして、パルミトイル化やミリストイル化、GPIアンカーなどが挙げられる。