5. ワクチンと治療薬

2020年7月30日

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更新情報

2021.10.27 サイトリニューアルを行い「阪大微研のやわらかサイエンス 感染症と免疫のQ&A」として新たにオープンしました。

今後コンテンツを充実させていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

新サイトはこちら

https://biken.yawaraka-science.com/

Q5-1. ワクチンってなに? 
A. 特定の細菌やウイルスに対する免疫(抵抗力)を作るため、事前に接種しておく医薬品のことです。
 
ワクチンには、毒性をなくしたり弱めたりした細菌やウイルスを使います。
私たちの体に備わる免疫という仕組みには、侵入してきた細菌やウイルスの特徴を記憶し、次に来た時にすぐに撃退できるようにしておく機能があります。この機能を利用するのがワクチンです。ワクチンで予行演習をしておき、本番で即座に対応できるよう態勢を整えます。

ワクチンでひきおこされる免疫反応は「きちんと記憶される程度」の強さが必要です。しかし、強すぎてもダメで、「病気にならない程度」でないといけません。このちょうどよい「あんばい」の免疫反応をひきおこすワクチンをつくるのが非常に難しいのです。

 

(2020.7.29)


 

Q5-2. RNAワクチンとか、不活化ワクチンとか、色々あるけど一体なに?
A. ワクチンの成分によって下記のように分類されます。世界保健機関(WHO)が発表した2020年7月28日付の資料によると、新型コロナウイルスのワクチンは不活化ワクチンやDNAワクチンなど25種類の候補について臨床試験が行われています(https://www.who.int/publications/m/item/draft-landscape-of-covid-19-candidate-vaccines)。臨床試験とは、実際に人に投与して安全性や有効性を調べることです。
 
微生物病研究所とBIKEN財団では、新型コロナウイルスに対して、不活化ワクチン、VLPワクチンなどを中心に開発をすすめています。
 

ワクチンの種類

概要

生ワクチン

病気の原因となるウイルスや細菌の毒性を弱めて、病気を起こさないようにしたものをもとにつくるワクチンです。
例)みずぼうそうワクチン、おたふくかぜワクチンなど

不活化ワクチン

細菌やウイルスから免疫をつくるのに必要な成分を取り出して毒性を無くしてつくったものです。体内で細菌やウイルスは増殖しませんが、ワクチンごとに決められた回数を接種することによって免疫ができます。
例)インフルエンザワクチン、日本脳炎ワクチンなど

VLPワクチン

VLP(Virus Like Particle)は日本語で「ウイルス様粒子」、つまりウイルスに似せた粒子のことです。

ウイルスは遺伝子とそれを取り囲む殻でできています。コロナウイルスの殻は図のスパイク、マトリックス、エンベロープという3つのたんぱく質からできています。

ウイルス様粒子は、この3つのたんぱく質を人工的に合成して、つくったものです。

見た目はウイルスですが、中身の遺伝子がないので、体の中にいれても増殖せず病気になりません。

このウイルス様粒子(VLP)をワクチンのもととして開発するのがVLPワクチンです。

例)子宮頸がんワクチンなど

 

   

イラスト提供:阪大院修了(微研・神谷研)河内健吾 Ph.D.

核酸ワクチン

RNAワクチンやDNAワクチンが含まれます。

核酸(DNAやRNA)はたんぱく質の設計図です。ウイルスや細菌そのものやたんぱく質を使うのではなく、設計図を体の中に入れてウイルスや細菌のたんぱく質を作らせ、免疫反応を起こす仕組みです。

 

対象となるウイルスの設計図をRNAまたはDNAとして人工的に合成し、ワクチンとして体に接種します。体に取り込まれたRNAまたはDNAを設計図としてウイルスのたんぱく質がつくられます。

つくられたたんぱく質は人の体にはない異物なので免疫反応が起き、免疫記憶となって抵抗力がつくことを狙っています。

 

DNAやRNAは人工的に自由な設計ができ、大量生産が従来のワクチンと比較して容易なので、開発が期待されていますが、まだ実用化されたワクチンはありません。

実用化には、他のワクチンと同様、有効性と安全性の確認など十分な検証が必要です。

 

<イラスト:AGCTGCATACA…と書かれた本(設計図)を細胞の中に入れるとたんぱく質ができる→免疫細胞が活性化する>

トキソイド

細菌の産生する毒素(トキシン)を取り出し、免疫を作る能力は持っているが毒性は無いようにしたものです。

例)破傷風トキソイドなど

(2020.7.29)

 
Q5-3. ワクチンを接種すれば病気にかからなくなる?
A. ワクチンで一定の効果が期待されますが、完全に病気にかからなくなるわけではありません
 

ワクチンは、侵入した細菌やウイルスを排除する抵抗力をつけるためのものであって、細菌やウイルスが感染しなくなるわけではありません。ワクチンを接種していても、体調が悪いなど何らかの理由で免疫が働きにくい状態であれば、十分な抵抗力を発揮できず、病気の症状がでてしまうこともあります。また、体質やワクチンの種類によっては「きちんと記憶される程度」の免疫反応を誘導しきれず、十分な抵抗力をつけることができない場合もあります。

 

ワクチンは免疫反応をひきおこし、それが記憶されることによって抵抗力をつけるものです。ワクチンによってひきおこされる免疫反応は「きちんと記憶される程度」の強さが必要です。一方、免疫反応が強すぎて副作用が起きてもいけません。ちょうどよい「あんばい」の免疫反応をひきおこすワクチンをつくるのが非常に難しいのです。

 

また、ワクチンによっては、逆に症状が悪化してしまう「ADE(抗体依存性感染増強)」という現象が起きてしまうこともあります。ADEはデング熱のワクチンなどで指摘されている現象で、ワクチンでできた抗体が逆に細胞への感染を加速させて重症化してしまいます。新型コロナウイルスと似ているSARS(サーズ)コロナウイルスでADEが起こることが報告されています。

(2020.7.29)

 

Q5-4. 新型コロナウイルスのワクチンはいつ頃できるの?ワクチンができるのにはなぜ時間がかかっているの?
A. ​世界保健機関(WHO)のまとめ(2020年7月28日付)によると、新型コロナウイルスのワクチン候補25種類が、人での安全性や有効性を調べる臨床試験という段階に入っています。安全性や有効性が確認されないとワクチンとして使えないため、いつ頃できるかについてはっきりしたことは言えません。

 

新型コロナウイルスのワクチンは早期実用化に向けて世界各国で開発が進められています。しかし、ワクチンは多数の健康な人に接種するため、安全性と有効性の確認は特に慎重に行う必要があり、どうしても時間がかかってしまいます。また、一般に治療薬の有効性は患者に投与して判断できますが、ワクチンの有効性(予防効果)は「試しにウイルスを感染させてみる」という試験ができず、判断が難しいという背景もあります。

(2020.7.29)


 

Q5-5. 抗生物質は効きますか?
A. 効きません。
抗生物質は細菌を殺す薬です。新型コロナウイルスなどのウイルスは、抗生物質で退治できません。
ただし、新型コロナウイルスやウイルスが原因の風邪にかかったとき、抗生物質が処方される場合もあります。それは、ウイルス感染をきっかけに、細菌が原因となる炎症がおきる可能性が高いためです。
(2020.7.29)

 
Q5-6. 新型コロナウイルス感染症の治療法はないんですか?
A. 全世界の死者数は7月末までに数十万人に達しており、日本でも1000人以上の方が亡くなりました。医療現場では医師たちが治療に力を尽くしていますが、重症化や死亡を防ぐ治療法はまだ確立していないのが現状です。
 
開発が求められている治療薬は、体内でのウイルスの増殖を阻害する薬や、重症患者で起きている過剰な免疫反応などの症状を抑える薬です。他の疾患の治療薬が新型コロナにも効果があるか調べるため、世界各国で臨床試験が進んでいます。この結果、日本でも抗ウイルス薬のレムデシビルが特例承認されるなど、一部の薬が使用できるようになりました。ただ、これらの治療薬の効果はまだ評価が定まっていません。
 
治療薬開発についての情報はネット上にたくさんありますが、医師の診断と指示に従いましょう。
厚生労働省のwebサイトで、治療薬の実用化に向けた取り組みが説明されています。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q2-11
(2020.7.29)

 

 

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