生体防御研究部門 自然免疫学分野/審良研究室
自然免疫とは、細菌や原虫、ウイルスなど幅広い病原体を認識するパターン認識受容体群によって始動され、炎症反応や獲得免疫応答へと誘導する、我々の身体が生まれながらにして(自然)備え持つ防御システム(免疫)です。自然免疫学分野では、自然免疫応答を構成する遺伝子群を研究対象として、自然免疫の分子メカニズムを生体レベルで包括的に理解する研究を展開しています。
免疫応答とmRNA安定性管理機構の関係性を探る
研究室では、種々の病原体を感知するパターン認識受容体と、その活性化と細胞応答を導く一連のシグナル伝達因子の機能を解明し、自然免疫応答の全貌の理解を目指して解析を行っています。その中でパターン認識受容体の一つであるToll-like receptor(TLR)が誘導するシグナル伝達系の解析から、「mRNAの安定性」を司るRNA分解酵素Regnase-1が炎症反応を制御する新規分子メカニズムを明らかにしました。
Regnase-1は自身の配列中にRNA分解活性ドメインとRNA結合モチーフを有し、そのRNA分解活性によって炎症性サイトカインのmRNAを認識・分解することで炎症反応を抑制しています。一方でTLRシグナル伝達経路が活性化されると、炎症性サイトカインmRNAの合成が速やかに促進されるとともにRegnase-1は一時的に不活性化されます。その結果、炎症性サイトカインmRNAが安定化し、炎症反応が誘導されます。つまり、通常の自然免疫担当細胞では内在性Regnase-1の作用によって極力炎症性サイトカインのmRNAは分解されている状態に保たれているのですが、ひとたび病原体侵入などの緊急時にはRegnase-1を介した抑制機構が解除され、迅速に炎症反応を促進するのです。このようなRegnase-1の制御の解除メカニズムは他の炎症性刺激やT細胞の活性化でも存在することが判明しており、Regnase-1が幅広い炎症反応・細胞活性化の制御に関与していることが明らかとなっております。さらに、Regnase-1には炎症・細胞活性化以外にも細胞・臓器の機能維持ための様々な制御機構が存在することが分かってきました。これらの活性化制御機構を理解していくために、免疫細胞のみならず非免疫系細胞にも注目し、RNA代謝や免疫代謝の観点からも解析を進めています。
メンバー
- 特任教授: 審良 静男(兼)
- 特任准教授: 前田 和彦(兼)
- 特任助教: 福島 清春(兼)
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最近の代表的な論文
- (1) Dysregulated expression of the nuclear exosome targeting complex component Rbm7 in nonhematopoietic cells licences the development of Fibrosis. Fukushima et al. Immunity. (2020) 52(3): 542-556.
(2) Phosphorylation-dependent Regnase-1 release from endoplasmic reticulum is critical in IL-17 response. Tanaka et al. J. Exp. Med. (2019) 216(6): 1431-1449.
(3) Regnase-1 controls colon epithelial regeneration via regulation of mTOR and purine metabolism. Nagahama et al. Proc Natl Acad Sci U S A. (2018) 115(43): 11036-11041.
(4) Identification of an atypical monocyte and committed progenitor involved in fibrosis. Satoh et al. Nature. (2017) 541(7635): 96-101.
(5) Malt1-Induced Cleavage of Regnase-1 in CD4+ Helper T Cells Regulates Immune Activation. Uehata et al. Cell. (2013) 153(5):1036-1049.
(6) Zc3h12a is an RNase essential for controlling immune responses by regulating mRNA decay. Matsushita et al. Nature. (2009) 458(7242):1185- 1190.