感染症国際研究センター  人獣共通細菌感染症研究グループ/塚本研究室

人獣共通感染症とは「ヒトとヒト以外の脊椎動物の間で伝播する病原体によって起こる感染症」であり、細菌やウイルス、寄生虫などが原因となります。これら人獣共通感染症を起こす病原体の中には、動物に病気を起こさないのにヒトには病気を起こすものがいます。このような「宿主特異性」はなぜ生じるのでしょうか。その要因は病原体によって様々であり、また宿主側の因子も複雑に関与するため、その答えに迫ることは容易ではありません。当研究グループでは、人獣共通感染症を起こす細菌を研究対象として病原性発現と宿主適応の分子メカニズムを明らかにし、「宿主特異性の謎」に迫れるような研究を目指しています。

バルトネラ属細菌の感染と病態発症の分子メカニズム

バルトネラ属に属する細菌は、様々な哺乳類や吸血性節足動物に保菌されており、これまでに40菌種以上が知られています。それらの中では、猫ひっかき病の原因となるバルトネラ・ヘンセレという菌が最も有名です。バルトネラ・ヘンセレは猫を自然宿主としており、猫には病原性を示しませんが、ヒトに感染するとリンパ節腫脹を伴う発熱を起こします。また、バルトネラ・ヘンセレ以外にもヒトにだけ病原性を示すバルトネラが複数存在します。これら種々のバルトネラがもつ感染性や病原性に関わる因子を探り、ヒトの細胞や組織モデルなどを用いて病態発症と宿主特異性の分子メカニズムについて解析を進めています。

バルトネラ属細菌が産生する血管新生因子

バルトネラ属の細菌は、ヒトの体内では血管内皮細胞に感染します。さらに、本菌は標的細胞である血管内皮細胞の増殖を促進させ、血管新生(既存の血管から新たな血管が伸張する)を起こすことが知られています。すなわち、バルトネラは自らの住処となる血管内皮細胞を自らの手で増やすことができ、これが感染成立や病原性の発現につながると言われています。このバルトネラが起こす血管新生に直接関与する因子として、私たちは菌から分泌されるタンパク質「BafA」を発見しました。BafAはヒトの血管内皮細胞表面に存在するVEGF(血管内皮増殖因子)の受容体に作用して、血管内皮細胞増殖と血管新生を誘導します。BafAの分子構造や作用機序の解析をすすめ、それがどのように菌の感染性や病原性に関わるのかを明らかにしたいと考えています。

  • バルトネラ属の細菌は、その菌種ごとに様々な動物や吸血性節足動物に保菌されている。それらの多くが人獣共通感染症の原因になると示唆されているが、中でもBartonella henselae, Bartonella quintana, Bartonella bacilliformisの3菌種がヒトに感染症を起こすバルトネラとして有名である。

  • バルトネラが産生する血管新生因子BafAの作用。BafAを血管内皮細胞に作用させると細胞増殖が亢進する(左)。また、BafAには管腔構造形成を促進させ(中央)、既存血管から微小血管を発芽・伸張させる活性(右)もある。

メンバー

  • 特任准教授: 塚本 健太郎
  • 特任研究員: 馬 幸延

ホームページ

最近の代表的な論文

  • (1)Suzuki N. et al., The autotransporter BafA contributes to the proangiogenic potential of Bartonella elizabethae. Microbiol Immunol. (2023) 67(5):248-257. doi: 10.1111/1348-0421.13057
    (2)Kumadaki K., et al., Comparison of Biological Activities of BafA Family Autotransporters within Bartonella Species Derived from Cats and Rodents. Infect Immun. (2023) 91(3):e0018622. doi: 10.1128/iai.00186-22
    (3)Tsukamoto K., et al., The Passenger Domain of Bartonella bacilliformis BafA Promotes Endothelial Cell Angiogenesis via the VEGF Receptor Signaling Pathway. mSphere. (2022) 7(2):e0008122. doi: 10.1128/msphere.00081-22
    (4)Tsukamoto K, Shinzawa N, Kawai A, Suzuki M, Kidoya H, Takakura N, Yamaguchi H, Kameyama T, Inagaki H, Kurahashi H, Horiguchi Y, Doi Y. The Bartonella autotransporter BafA activates the host VEGF pathway to drive angiogenesis. Nat Commun. (2020) 11(1):3571. doi: 10.1038/s41467-020-17391-2
    (5)Tsukamoto K. et al., CRISPR/Cas9-Mediated Genomic Deletion of the Beta-1, 4 N-acetylgalactosaminyltransferase 1 Gene in Murine P19 Embryonal Carcinoma Cells Results in Low Sensitivity to Botulinum Neurotoxin Type C. PLoS One. (2015) 10(7):e0132363. doi: 10.1371/journal.pone.0132363