感染症国際研究センター  新興ウイルス感染症研究グループ/岩﨑研究室

西アフリカや南アメリカで猛威を振るうラッサウイルスやフニンウイルスのように、哺乳類アレナウイルスにはウイルス性出血熱を引き起こし、それぞれの流行地で公衆衛生上深刻な問題となっている病原体が含まれています。一方で全世界に分布するリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)は臨床上重要な病原体であるにもかかわらずその認識が低いのが現状です。これら哺乳類アレナウイルス感染症に対する確立された治療法が存在しないことがさらに不安を増大させる大きな要因となっています。私たちは哺乳類アレナウイルスの遺伝子操作系(リバースジェネティクス系)を駆使することで、ウイルス増殖メカニズムを分子レベルで理解し、新規抗ウイルス薬やワクチンの開発を目指します。

 

哺乳類アレナウイルスは4つの遺伝子を持つシンプルなエンベロープウイルスです。4つの遺伝子は二分節のゲノムRNAそれぞれに2つずつ配置され、遺伝子間配列(IGR)で仕切られています(図1)。単純なゲノム構成とは対照的に、ウイルスの増殖過程や病気を起こすメカニズムは非常に複雑で、我々の理解はほとんど進んでいません。これらを解明し、得られた知識を新規治療法の創出に役立てるために、当研究室では哺乳類アレナウイルスの遺伝子操作系(リバースジェネティクス系)を活用しています。この系を用いることで、変異の導入やeGFPのような外来遺伝子を持つ組換えウイルスの作製を自由自在に行うことができます。これまでにL分節のIGRを人工合成IGRと置き換えた組換えLCMV [rLCMV(IGR/S-Ssyn)]の作製に成功しました。rLCMV(IGR/S-Ssyn)は培養細胞では効率よく増殖しましたが、マウスでの病原性は著しく減弱していました。この方法は、アミノ酸残基を1つも変えずに弱毒生ワクチンを作製する手段として、ラッサウイルスのように現在流行しているものだけでなく、将来新たに出現するいかなる出血熱哺乳類アレナウイルスにも応用が可能であると考えられます。また、eGFPやアフィニティータグを付与したウイルスタンパク質を発現する組換えLCMVも作製しました。これらを用いたsiRNAまたは化合物のスクリーニングやプロテオーム解析により、薬物標的となりうるウイルス-宿主相互作用の同定も進めていきます(図2)。

  • 図1
    (A)哺乳類アレナウイルスゲノム構成の模式図。(B)LCMV S-IGR(左)と人工合成S-IGR様IGR(右)の予想RNA二次構造。
    (Iwasaki M. et al., J Virol. (2016) 90(6):3187-97)

  • 図2
    これまでの研究で得られた知見のまとめ

メンバー

  • 特任准教授: 岩﨑 正治
  • 特任研究員: 橋爪 芽衣

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最近の代表的な論文

  • (1) The Pan-ErbB tyrosine kinase inhibitor afatinib inhibits multiple steps of the mammarenavirus life cycle. Mizuma K. et al., Virology (2022) 576:83-95.
    (2) A small stem-loop-forming region within the 3′-UTR of a non-polyadenylated LCMV mRNA promotes translation. Hashizume M. et al., J Biol Chem. (2022) 298:101576.
    (3) Population-Specific ACE2 Single-Nucleotide Polymorphisms Have Limited Impact on SARS-CoV-2 Infectivity In Vitro. Hashizume M. et al., Viruses (2021) 13:E67.
    (4) A Lassa Virus Live-Attenuated Vaccine Candidate Based on Rearrangement of the Intergenic Region. Cai Y. et al., mBio (2020) 11:e00186-20.
    (5) Interactome Analysis of the Lymphocytic Choriomeningitis Virus Nucleoprotein in Infected Cells Reveals ATPase Na+/K+ Transporting Subunit Alpha 1 and Prohibitin as Host-Cell Factors Involved in the Life Cycle of Mammarenaviruses. Iwasaki M. et al., PLoS Pathog. (2018) 14:e1006892.