バイオインフォマティクスセンター  感染症メタゲノム研究分野/中村研究室

次世代DNAシークエンス技術は短時間で膨大な遺伝情報を生み出すことを可能とする技術で、ゲノム科学や疾患研究に劇的な変革をもたらしています。感染症メタゲノム研究分野では、微生物学、感染症学、バイオインフォマティクス各分野の専門スタッフが集結し、次世代シークエンサーを用いたゲノム解析やメタゲノム解析による病原体と感染症の理解を目指し研究を展開しています。

メタゲノム解析による病原体検出法の開発

メタゲノムとは、環境中に生息する生物集団に由来するゲノムをひとつの総和として扱う概念です。次世代シークエンサーの登場により、大規模な生物集団のゲノムの網羅的な解析が可能になり、メタゲノム解析は飛躍的に進歩しました。例えば、ある原因不明の疾患に関して、血液や鼻咽頭サンプル中の微生物ゲノムを網羅的に解析できれば、症状の原因となる病原体や、病原因子の遺伝子が同定可能になります。この方法は、従来の病原体特異的な手法とは異なり、一つのサンプルで多数の病原体が検出できる上に、血液、鼻腔サンプル、便など様々な形態のサンプルに適応が可能です。研究室では、このメタゲノム解析による病原体の検出法と診断法の確立に向けて研究を行っています。

 

感染症発症時における腸内細菌叢の解析

腸内細菌叢は、様々な疾患において重要な役割を果たしていることが明らかになりつつあります。研究室では、下痢症発症時の腸内細菌叢のメタゲノム解析を行い、細菌叢の変動や、その回復について、ヒトと腸内細菌、病原体の3者間の関係を研究しています。また、腸内細菌叢は疾患だけでなく、生活習慣などの我々の生理的な状態と密接に関連しています。腸内細菌叢が環境要因や個体の状態によってどのように影響をうけるかについても着目し、研究を行っています。
次世代シークエンサー技術は、めざましい進歩を遂げており、様々な特質を持った機種が次々と開発されています。また、次世代シークエンサーはあくまで核酸配列を読むだけであり、得られた膨大なデータに対応し得る解析が必要です。次世代シークエンサーの特質を理解した上で適切な機種を選択し、膨大なデータ解析を行うには、微生物学、ゲノミクス、バイオインフォマティクスなど多様な知識が重要です。研究室ではそれぞれの専門家が協力しあい、研究を進めています。

病原体のゲノム解析

感染症には、病原性の原因となる分子メカニズムが不明のものが未だ数多くあります。研究室では、病原体のゲノム解析により病原原因となる遺伝子を同定し、感染症発症の分子メカニズムを解明すべく研究を進めています。

  • 図1:次世代シークエンサーで得られる膨大なデータを解析するための大型計算機

  • 図2:次世代シークエンサー4機種による腸炎ビブリオゲノムのゲノム解析比較 ■454 GS Jr(Roche)、■IonPGM(Life Technologies)、■MiSeq(Illumina)、■Pacific Biosciences RS System (PacBio) 第二世代のGS Jr、IonPGM 、MiSeqはリード長が短いため、断片をアセンブルする必要があるのに対し、第三世代のPacBioはそれらが繋がり染色体に相当する2本の長い断片として読むことができる。ただしPacBioは配列情報の正確性はまだ低い。またMiSeqは断片の長さはPacBioに及ばないが、読めるデータ量は他を圧倒している。これらそれぞれの特質を理解しシークエンサーを使い分けた上で解析を行う必要がある。

メンバー

  • 准教授: 中村 昇太
  • 教授: 飯田 哲也(兼)
  • 講師: 元岡 大祐(兼)
  • 特任助教: 松本 悠希
  • 特任助教: 福島 清春(兼)
  • 特任研究員: 沖 大也
  • 特任研究員: 今村 優子

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最近の代表的な論文

  • 1)Structural basis for the toxin-coregulated pilus-dependent secretion of Vibrio cholerae colonization factor. Oki H. et al., Sci Adv. (2022) 8(41):eabo3013
    2)Longitudinal alterations of the gut mycobiota and microbiota on COVID-19 severity. Maeda Y. et al., BMC Infect Dis. (2022) 22(1):572.
    3)Benchmark of 16S rRNA gene amplicon sequencing using Japanese gut microbiome data from the V1-V2 and V3-V4 primer sets. Kameoka S. et al., BMC Genomics (2021) 22(1):527.
    4)Pulmonary disease caused by a newly identified mycobacterium: Mycolicibacterium toneyamachuris: a case report. Kuge T. et al., BMC Infect Dis. (2020) 20(1):888
    5)Comprehensive subspecies identification of 175 nontuberculous mycobacteria species based on 7547 genomic profiles. Matsumoto Y. et al., Emerg Microbes Infect. (2019) 8(1):1043-1053.