患者向けページ

1.先天性GPI欠損症の原因は何ですか?

 人間の体の脳、心臓、筋肉、脂肪、皮膚等のあらゆる組織は、それぞれ組織特有の細胞から成り立っており、その細胞では遺伝子からRNAを経て2万種以上のタンパク質が作られます。タンパク質は細胞内の核(遺伝子が入っています)、ミトコンドリア等の細胞小器官、それ以外の細胞質、細胞膜などに分布してそれぞれ重要な働きをしています。細胞膜上に存在するタンパク質の中にはGPIアンカー型タンパク質とよばれる共通の構造を持つタンパク質の一群があり、アルカリホスファターゼ(ALP)等の酵素をはじめ150種以上知られており、重要な働きを担っています。 GPIアンカーとは、これらのタンパク質の細胞膜への結合に用いられている糖脂質のことを言い、細胞内でアンカー部分とタンパク質部分が別々に合成され、結合して細胞表面で働きます。そのGPIアンカーの合成と修飾に27個の遺伝子が必要であることがわかっています。これらの遺伝子異常でGPIアンカーが欠損すると、150種類以上のGPIアンカー型タンパク質が細胞表面に発現できなくなるので、完全欠損は胎内で死亡します。先天性GPI欠損症はこれらの27個の遺伝子のうちの一つの遺伝子の変異により活性が低下して、細胞表面で重要な働きをするGPIアンカー型タンパク質が減少することによって発症します。

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2.先天性GPI欠損症の症状は何ですか?

 主な症状はてんかんと精神運動発達障害で、時に特徴的な顔貌、高アルカリホスファターゼ(ALP)血症、手指の末節骨や爪の低形成、難聴、ヒルシュスプルング病や腎低形成等種々の奇形を呈します。遺伝子によってはてんかんを来さない場合もあり、変異を起こした遺伝子の種類や変異の影響の程度により症状が異なります。

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3.この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?

 2006年に世界で最初の先天性GPI欠損症であるPIGM欠損症が報告されて以来、2010年以降国内で約30名海外を含めると約200名が次々と見つかっています。この疾患は最近発見された新しい疾患で、これから我々の研究班で診断のガイドラインを作って多くの患者さんのスクリーニングを進めることにより、多くの患者さんが見つかると考えています。

4.この病気は遺伝するのですか?

 GPIアンカーの生合成と修飾に関与する27個の遺伝子のいずれかの 変異により発症する遺伝性の疾患です。これらの遺伝子のうちPIGAのみがX染色体上にあり、あとの遺伝子は常染色体上にあります。したがってPIGA欠損症は男児のみが罹患し、多くは母親からPIGAの変異を受け継いでいます。他の遺伝子の欠損症は両親からそれぞれ変異を持った遺伝子を受け継いでいます。

5.この病気の診断はどのようにしてするのですか?

 生まれつきの原因不明のてんかんや発達の遅れがある場合、採血をしてフローサイトメトリーという方法で白血球表面のGPIアンカー型タンパク質の量を測定することにより診断できます。一般検査のアルカリホスファターゼの値が高値であるとより疑われます。27個の遺伝子のどの遺伝子に変異があるか診断する為には、血液から遺伝子をとって遺伝子の配列を調べて異常を見つけます。遺伝子の種類によっては低下がみられないこともあるので、症状から疑わしい場合には、フローサイトメトリーで低下がみられなくても遺伝子解析をする事があります。
 私たちの研究班では一般の医療機関からの患者さんの血液検体を受け付けて解析をしています。かかりつけのお医者さんに相談してください。遺伝子解析は、患者さんの同意のもと行っています。ヒト遺伝子を解析する場合には研究機関での倫理審査を受ける必要があると厚生労働省の指針で定められています。大阪大学では倫理委員会の審査を受けてその承認のもとにIGDの遺伝子解析を行っています。

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6.この病気の治療法はあるのですか?

 最近発見された疾患で、遺伝子の変異による病気なので、今のところ根本的な治療法はわかっていません。しかしGPIアンカー型タンパク質の1つのアルカリホスファターゼの低下により、十分なビタミンB6を取り込めない事により、けいれん発作がおこることがわかってきました。そのためビタミンB6(ピリドキシン)の投与が痙攣発作に著効する症例があります。今後も患者さんの病態の解析により、種々の補充療法ととともに根本的な治療薬の開発をを目指します。生まれつきの病気ではありますが、出生後も症状が進むので早期診断をして早期に治療を開始すれば症状を軽減することができると考えています。

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