診療のガイド

先天性GPI欠損症の診療ガイド

1.疾患概念

先天性GPI欠損症(IGD; Inherited GPI Deficiency)は狭義にはGPIアンカーの生合成、タンパク質への付加及び修飾に関係する遺伝子の変異により、それらがコードするタンパク質の発現や活性の低下が起こり、細胞表面のGPIアンカー型タンパク質の発現低下や構造異常を来すことにより発症する遺伝性の疾患である。
広義には上記の遺伝子以外で、GPIアンカー型タンパク質の輸送や、発現に関係する遺伝子等の変異により二次的に細胞表面のGPIアンカー型タンパク質の発現低下や輸送の異常が起こる遺伝疾患も含める。

■ 報告されているIGD

原因遺伝子 症状
PIGA MCAHS type2, EOEE,
PIGQ EOEE
PIGY Intellectual disability, Seizure
PIGC Intellectual disability, Seizure
PIGP EOEE
PIGH Epilepsy, microcephaly, and behavioral difficulties
PIGL CHIME syndrome, HPMR (Mabry) syndrome
PIGW HPMR (Mabry) syndrome, EOEE
PIGM Thrombosis, Seizure
PIGV HPMR (Mabry) syndrome
PIGN MCAHS type1
PIGO HPMR (Mabry) syndrome
PIGF Overlap with DOORS syndrome
PIGG Intellectual disability, Seizure
PIGS Overlap with DOORS syndrome
PIGU Intellectual disability, Seizure, Cerebellar atrophy
PIGK Intellectual disability, Seizure, Cerebellar atrophy
PIGT MCAHS type3
GPAA1 Intellectual disability, Seizure, Osteopenia
PGAP1 Intellectual disability, Seizure
PGAP2 HPMR (Mabry) syndrome
PGAP3 HPMR (Mabry) syndrome

MCAHS, Multiple Congenital Anomalies Hypotonia Seizures Syndrome; EOEE, Early Onset Epileptic Encephalopathy; CHIME, Coloboma Heart defect Ichthyosiform dermatosis Mental retardation and Ear anomalies; HPMR, HyperPhosphatasia Mental Reterdation

2.診断基準

  1. 1) 臨床症状
    周産期異常を伴わない知的障害・運動発達障害。多くはてんかんを伴い、時に家族性に見られる。
    他に頻度の高い症状として以下の症状がある。
    • 新生児期、乳児期早期発症の難治性てんかん (大田原症候群・ウェスト症候群)
    • 顔貌異常 : (両眼解離・幅の広い鼻梁・長い眼裂・テント状の口・口唇、口蓋裂)
    • 手指、足趾の異常 (末節骨の短縮・爪の欠損、低形成)
    • その他の奇形 : 肛門、直腸の異常・無ガングリオン性巨大結腸・水腎症・心奇形など
    • 難聴・眼、視力の異常
    • 皮膚の異常(魚鱗癬など)
    • 四肢の短縮、関節拘縮、筋緊張低下
  2. 2) 以下の検査所見がしばしば見られる
    1. ① 高アルカリホスファターゼ(ALP)血症
    2. ② 手指・足趾のX線写真で末節骨欠損
    3. ③ ABRの異常
    4. ④ 脳MRIのDWI法にて基底核に高信号、小脳萎縮
  3. 3) 確定診断
    末梢血のフローサイトメトリーによる解析で顆粒球表面のGPIアンカー型タンパク質の低下が認められればIGDと確定するが、低下が認められない場合でも否定はできないので、その場合の確定診断はターゲットシークエンスあるいはエクソーム解析による遺伝子診断による。GPI関連遺伝子に変異があり、その変異によりコードするタンパク質の活性低下を起こすことを機能解析で証明する。常染色体上の遺伝子の場合には両方のアレルに変異がある。GPI関連遺伝子以外の遺伝子の変異の場合には、その変異によりGPIアンカー型タンパク質の輸送の異常や、発現低下が起こることを証明する。

3.病型分類

  1. (1) GPIタンパク質の発現低下を伴うIGD
    1. 1) 高アルカリホスファターゼ血症を伴うIGD
      (PIGW, PIGV, PIGO, PGAP2 欠損症など)
    2. 2) 正常アルカリホスファターゼ値のIGD
      (PIGA, PIGQ, PIGL, PIGM, PIGN, 欠損症など)
    3. 3) 低アルカリホスファターゼ血症を伴うIGD
      (PIGT 欠損症など)
  2. (2) GPIタンパク質の発現低下を伴わないIGD
    1. 1) 高アルカリホスファターゼ血症を伴うIGD
      PGAP3 欠損症など
    2. 2) 正常アルカリホスファターゼ値のIGD
      PGAP1 欠損症など

4.病因・病態

  1. 1) GPIアンカーの生合成およびタンパク質への付加に必要な遺伝子の変異によるもの
    PIG遺伝子欠損症(PIGA, PIGQ, PIGL, PIGW, PIGM, PIGV, PIGN, PIGO, PIGT 欠損症など)
  2. 2) GPIアンカーの修飾に必要な遺伝子の変異によるもの
    PGAP遺伝子欠損症(PGAP1, PGAP3, PGAP2, PGAP5 欠損症など)
  3. 3) その他の遺伝子の変異によるもの

GPIアンカー型タンパク質の欠損と病態

  • アルカリホスファターゼの発現低下とてんかん
    ALPは細胞表面で、ビタミンB6であるピリドキサールリン酸を脱リン酸化して細胞内に取り込める形のピリドキサールにし、細胞内に入ったピリドキサールは再びリン酸化されてピリドキサールリン酸となり、抑制性ニューロンにおいてγ-アミノ酪酸(GABA) 合成酵素の補酵素として働く。細胞膜上にALPが発現しないと細胞内のピリドキサールリン酸が不足しGABA合成が抑制される結果けいれん発作がおこると考えられる。ビタミンB6はGABA合成だけでなく様々な代謝に関わっているので、ビタミンB6欠乏による代謝異常が起こる可能性がある。

5.検査所見

高ALP血症を伴う知的障害、運動発達障害はIGDである可能性が高いが変異遺伝子のステップによっては正常の場合もあり、逆にPIGT欠損症では低値になり共通の症状に加えて骨の形成異常を示す。
手指・足趾のX線写真で末節骨欠損
ABRの異常、脳波の異常
脳MRIのDWI法にて基底核に高信号、小脳萎縮、顆粒球FACSにてCD16の発現低下

6.治療指針(ビタミンB6補充療法)

現在ビタミンB6(ピリドキシン)投与による臨床研究が行われている。

7.ガイドライン(2018年版)