パラ百日咳菌の産生する三量体Gタンパク質Gi不活化毒素を同定(堀口研がPNASに発表)

分子細菌学分野の平松征洋助教、堀口安彦教授(感染症総合教育研究拠点兼任)らの研究グループは、パラ百日咳菌の産生する毒素DATを同定し、この毒素が三量体Gタンパク質Gi※1を不活化することで咳発作を誘発することを明らかにしました。

研究成果のポイント

  • パラ百日咳菌の産生する咳誘発毒素DATを同定した。
  • DATは三量体Gタンパク質Giのαサブユニットからミリスチン酸を除去(脱ミリストイル化)することで、Giを不活化することを明らかにした。
  • DATの免疫により、パラ百日咳菌による咳発作が抑制されたことから、新規ワクチン抗原としての利用が期待できる。

本研究の内容

百日咳は、激しい咳発作を主症状とするヒトの呼吸器感染症です。主な原因菌として百日咳菌(Bordetella pertussis)が知られていますが、パラ百日咳菌(B. parapertussis)も百日咳様の激しい発作を引き起こします。これまでに私たちは、百日咳菌の産生する3種類の病原因子(リピドA、Vag8、百日咳毒素)が協調して咳発作を引き起こすことを報告しました(Hiramatsu et al., mBio 13(2):e0319721)。一方、パラ百日咳菌は、リピドA、Vag8を産生しますが、百日咳毒素を産生しません。百日咳毒素は、三量体Gタンパク質GαiのADPリボシル化によりGiの機能を不活化し、咳発作を誘発します。そこで私たちは、パラ百日咳菌が百日咳毒素に代わるGi不活化毒素を産生していると考え、その同定を試みた結果、パラ百日咳菌の培養上清中に含まれるGi不活化毒素を発見しました。この毒素は、脱アシル化活性を有しており、オートトランスポーターに属するタンパク質であったため、deacylating autotransporter toxin(DAT)と命名しました。さらに、DATは、その脱アシル化活性により、Gαiからミリスチン酸を除去(脱ミリストイル化)し、Giの機能を不活化することを明らかにしました。また、現行の百日咳ワクチンは、パラ百日咳菌感染による咳発作に無効であることが知られています。本研究では、DATをマウスに免疫することで、パラ百日咳菌感染による咳発作を抑制できることを示しました。本成果により、DATをワクチン抗原として含む新たな百日咳ワクチンの開発に繋がることが期待されます。

 

本研究成果は、米国科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)」オンライン版に2023年9月26日(火)午前5時(日本時間)に公開されました。

タイトル:"DAT, deacylating autotransporter toxin, from Bordetella parapertussis demyristoylates Gαi GTPases and contributes to cough"

著者名:Yukihiro Hiramatsu, Takashi Nishida, Natsuko Ota, Yuki Tamaki, Dendi Krisna Nugraha, Yasuhiko Horiguchi

 

用語説明

※1 三量体Gタンパク質Gi

種々の細胞内情報伝達経路のスイッチの役割を果たす三量体GTP(グアノシン三リン酸)結合タンパク質の一種である。Giは、細胞内のアデニル酸サイクラーゼを抑制することが知られている(Giのiは“inhibitory”の頭文字)。

  • 図. DATによる三量体Gタンパク質Giの不活化メカニズム A) Gタンパク質共役型受容体(GPCR)にリガンドが結合すると、Gαiはアデニル酸サイクラーゼ(AC)の活性を阻害し、下流のシグナル伝達を抑制する。 B)DATは、Gαiの脱ミリストイル化によりGαiとACの結合を阻害し、Giによる下流のシグナル伝達の抑制機構を無効化する。